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act.2追憶プレリュード<89>*

「…ァ……ン、んッ」 葵の上顎や歯列、頬の内側の柔らかな粘膜をなぞりきってようやく、舌同士を絡めれば、少しだけ苦しげな声が漏れる。葵が体を揺らすたびに、ぱしゃりと浴槽の水面が波打つ音が響いた。 元から体温が低めな都古にとって、葵の舌は火傷しそうなほど熱くて癖になる。もっともっと触れていたい。 だからより深く深く粘膜を磨り合わせていたのだが、葵の頬に添えていた自分の指先に雫が伝ってきたことに気が付いて慌てて口付けを解いた。 「アオ?……ごめん、ヤ、だった?」 見やれば葵の目元からは涙が溢れてしまっている。泣かせるつもりはなかったと弁解するように涙を拭うが、葵は都古の腕から逃れ、また浴槽の中に身を沈めてしまう。 乳白色の入浴剤のせいで葵の体を見ることは出来ないが、自分の体を抱えるように体育座りをしているようだった。都古の顔も見てくれない。 「アオ?なんで?」 拒絶するような態度を取られてしまい、都古だってショックを受ける。問いただす、というよりは縋るように葵の顔を無理やり覗き込んだ。 「あ…ヤ、とかじゃ、なくて…」 「じゃ、なんで?」 「だから…その…」 「アオに、会いに、来たのに」 「それは、うれしいけど」 都古がジッと見つめれば、歯切れは悪いもののちゃんと答えようとしてくれる。都古自体を拒みたかったわけではないようだ。 ではどうして、と更に問い詰めようとした都古は、ふと、心当たりが浮かんだ。 戸惑っているような葵の様子。そして体を隠すような姿勢。何より、とろんと溶け始めている葵の瞳。 浮かんだ予測を確かめるために都古が再び湯船の中に手を突っ込み、今度は腕、ではなく、葵の下半身をまさぐるように動く。 「あッ、ちょ、だめ!」 「アオ、可愛い。ちゃんと、しよっか」 葵が隠そうとしていた足の付根にあるものを都古の指先が捕らえれば、焦った葵が更にその手を掴もうとしてくる。だがもう遅い。キスだけで芯を持ち始めたそこは都古が先に確保した。感触だけでも可愛くて可愛くて仕方がない。 「アオ、つらくなったら……俺に、甘えて?」 体で一番敏感で無防備なそこに触れられた葵は恥ずかしさを堪えるようにまたギュッと目を瞑って都古にすがってくるが、都古はそのまま行為へと流さずに葵からの大元の質問の意図に立ち戻る。

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