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act.2追憶プレリュード<96>

「ちゃんと、したら……ご褒美?」 周りの先輩達には聞こえないよう、そっと耳に唇を寄せて都古が甘く囁いてきた。”ご褒美”に都古が何を求めるか、葵は散々それを体験させられてきたのだからすぐに予想がついてしまう。 「いっぱい、するよ?」 “いっぱい”なんて宣言されれば素直に頷きにくい。でも都古をなだめるにはこの方法しかないのだ。 不本意ではあるが葵がこくんと頷いてやれば、猫は満足そうに微笑んであっさりと席を立った。 「また、ね。アオ」 先輩たちが見ているにも関わらず、都古は葵の頬に短いキスを落とすと、扉からではなく窓から姿を消した。その頭の中はきっと後ほど貰うつもりの”ご褒美”でいっぱいに違いない。 「あいつ、本当になんなの?なんでわざわざあっちから帰るわけ?」 「入学した時はまともだった気がするが。お前も罪なやつだな」 都古がキスしていった葵の頬を櫻が自身の指で拭きながら窓を睨みつければ、それに乗じて忍も葵の隣に陣取ってこめかみにキスを送ってみせる。 「葵、猫が飼いたいならもっと小さくて可愛いのを用意してやる。あれは野生に返してきたらどうだ?」 「そうだね、代わりの猫あげる。従順で可愛げのあるやつ」 「そんな……ダメです、みゃーちゃんは僕のです。いくら会長さんと櫻先輩でもあげられないです」 葵にとっては可愛い猫である都古を、二人が羨ましがっている。そう勘違いした葵は両サイドから挟み込んでくる先輩たちを見上げて必死に説得をしようと試みた。 「俺達があれを欲しがるわけがないだろう。金を積まれたっていらん」 「僕らが欲しいのは葵ちゃん。あの猫がどこでも着いて来たら困るわけ」 斜め上の方向で葵が解釈をこじらせているのに気がついた二人は慌てて取り繕うとするが、元来葵をなだめるのが下手な二人。心配を取り去るどころか、葵の顔からは一向に不安の色が消えない。 「そういえば葵くん。先生から聞いたけど、烏山くん、学力テストの結果、ひどかったんだって?大丈夫?」 奈央は噛み合わない三人の様子を苦笑いしながら見守っていたが、ふと、先日葵と都古のクラスの担任教師から声を掛けられたことを思い出した。 学業に一切の関心がない都古に苦労させられている担任は、都古が成績優秀者の集まりである生徒会に出入りしていると知って、助けを求めてきたのだ。すなわち、都古に勉強をさせるよう促してほしい、あわよくば教えてやってほしい、と。

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