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act.2追憶プレリュード<97>
「そうなんです。だからゴールデンウィーク、ずっと補習らしくて。遊びに行こうって言ってたのに」
「え、そんなに馬鹿なの?猫ちゃんって」
「通りで会話のレベルが合わないわけだ」
奈央の言葉にしょんぼりとする葵に追い打ちをかけるように、櫻や忍が呆れた声を出した。でも、すぐに葵の言葉の中に付け入るチャンスを見つけたコンビはキラリと妖しげに瞳を輝かせてみせる。
「でも、それなら僕とデートする時間が作れるね?どこ行こっか?」
「何一人でいい思いをしようとしているんだ。俺がどこにでも連れて行ってやるよ、葵」
葵に食事をさせる、なんて目的はもうすっかり二人の頭から抜け落ちているようだ。今は葵の休みの日をいかにして確保するかに必死になっている。
「二人とも、その辺にしないと昼食の時間終わっちゃうよ」
葵のことになると途端に子供っぽくなる二人の姿は面白くもあるが、こうしていつも止めに入らなくてはならない奈央は苦労もしている。
「なに?じゃあ奈央は葵ちゃんとデートしたくないわけ?」
「随分と余裕だな。葵、頼まれたって奈央とは出掛けるなよ」
こうして変に怒りの矛先を向けられるのも厄介だ。もう少し落ち着いてほしい、奈央がそう願いたくなるのも無理はない。
それに、奈央が頭を覆いたくなるのは肝心の葵が度々二人を煽るようなことを平気で言ってしまうこと。
「でも、もうお兄ちゃんと奈央さんと三人で出かけようって約束しちゃってます」
今だって二人には秘密にしておきたかったゴールデンウィーク中の約束を無邪気に打ち明けてしまう。悪気は微塵もない、それは分かっているのだがなんとも恨めしい。
葵の兄代わりの冬耶が一緒にいるからデートですらないというのに、抜け駆けだ、と盛大に妬き始めた忍と櫻のせいで、結局全員がまともにランチに有りつけたのは随分と時間が経ってからのことだった。
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