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act.2追憶プレリュード<98>
* * * * * *
生徒会のメンバーがランチを終えて別館を出たのは、次に控えた行事の準備を始めるギリギリの時間。皆が足早に玄関の扉を開けば、そこには瓜二つの顔が待ち構えていた。
「「葵先輩!!」」
葵を取り囲む三年生の影など全く気にしない様子の二人は、一年の双子、聖と爽だった。二人を見つけた瞬間、葵はランチの約束を破った後ろめたさに表情を曇らせる。
だが二人は事情を京介から伝え聞いていたから葵を咎める気など全く無い。ただ広まっている噂の真実を確かめたくてこうしてここで葵を待っていたのだ。
「葵先輩、三年に告白されたってホントですか?」
「もちろんちゃんと断ったんですよね?」
バスケ部の三年が葵に告白し、京介がそれを牽制して勝負に持ち込んだ経緯は学園中の噂になっていた。京介率いる付け焼き刃のチームが見事バスケ部に勝利したことも合わせて広まり、バスケ部は他の運動部から大いに馬鹿にされてしまっている。
聖も爽もそんな三年の哀れな処遇などどうでも良いが、葵の口からしっかりと告白に乗る気はない、断った、そう聞いておかないと不安で仕方がなかったのだ。
でも当事者の葵は生憎事情をこれっぽっちも理解していない。
「君たち、その話はあとで生徒会が聞き取りを行うことになってるから、変に騒ぎを広げないで」
困惑を隠しきれない様子の葵を助けるために口を挟んだのは奈央だ。
葵に詰め寄り、結果的に氷水を浴びせることになった三年、安達からは彼なりの言い分を聞くことは出来た。そして別途京介から事情を聞くつもりでいたのだ。
生徒会が介入するべき問題だから、と周囲にいた人間にも箝口令を敷いたはずだったのだが、あれだけの目撃者が居てはどうにもならなかったらしい。
そして、奈央の言葉はこの双子の前でも無力。
「告白するのが有りならとっくにしてたのに。ねぇ先輩、俺が先輩のこと大好き、付き合ってって言ったら断る?それともオッケーしてくれます?」
「ちょ、何勝手なこと言ってんの?それなら俺も、先輩が好きだから付き合ってほしいんですけど」
端正な顔を葵に近づけて先に告白したのは聖。その様子に慌てて爽も名乗りを上げた。
「え、あの、いいよ?どこか行きたいとこあるの?」
二人の剣幕に少々恐れをなしながらも、葵は”付き合う”の意味を履き違えてあっさりと承諾の頷きを返す。
こうなることが分かっているから、今葵を取り囲む生徒会のメンバーも、そして長年一緒にいる京介、そして都古も、葵に正式に交際を申し込むことが出来ないのだ。まずは葵がもう少しオトナになってくれないと何も始まらない。
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