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act.2追憶プレリュード<99>

だが、双子は葵の見当違いな返答にがっかりするどころか思い切り頬を緩ませて抱きつきにかかってしまう。 「何それ、超可愛いんですけど。あぁこんな可愛い先輩が他の奴に取られるなんて耐えられない。俺にしてください。ね?」 「お前みたいなのに貰われる方が葵先輩にとって不幸だろ。俺にしたほうがいいですよ」 傍から見れば葵を両サイドから抱きしめる二人に何の違いもない。馬鹿馬鹿しい争いに、忍も櫻も、そして奈央までも呆れた溜息をつくが、二人は更にヒートアップするばかり。 「何かと言えば俺の後ろにくっついて回ってる爽に言われたくないね。俺が居なかったら何も出来ないじゃん」 「はぁ?いつも誰が聖の我儘の尻拭いしてると思ってるんだよ」 「我儘?我儘はどっちだよ。今朝だって勝手に抜け駆けして葵先輩独り占めしようとした爽に言われたくない」 「ね、ちょっと待って、ケンカしないで」 今朝方起こった喧嘩の火種がくすぶっていたのか、七瀬に注意されたのも忘れて聖と爽の口論が激しさを増してきた。同じ顔で罵り合う姿は異様だ。 挟まれた葵が二人をそれぞれ見やりながら止めに入るが、意味をなさない。それどころか、取り返しの付かない雰囲気に陥ってきてしまう。 「葵先輩、俺のほうが行動力もあるし、器用だし、頼りがいがありますよ。その点、爽はいつも俺の背中に隠れてるようなひ弱だからおすすめしません」 「なんだよ、それ。いつもそんなこと思ってたのかよ」 ニコリと笑いながら葵に語りかけていた聖の肩口を掴んだ爽の顔はこれ以上ないぐらい怒りと、そして悲しみに満ちていた。 てっきり同じようにやり返してくるものだと思っていた聖は爽の反応に面食らったようで一時沈黙がその場に流れる。 「ねぇ、仲良くしよ?なんでケンカするの?僕の、せいなの?」 七瀬が指摘した通り、葵は目の前でこうした争いを見るのは大の苦手だ。二人の真意は理解できずとも、原因が自分であることは葵にだって察しがついている。 ただの兄弟喧嘩なら放置するつもりだった生徒会も、葵の目に涙が溜まっていることに気が付けば乗り込まざるをえない。 「お前たち、それ以上ここで騒ぐなら容赦しない」 「葵ちゃん泣かせていいのは僕だけだからね」 「……櫻、それ違う。でも本当に二人共、いい加減にして」 三者三様、双子の喧嘩を諌めれば、二人もようやく真ん中にいる葵が今にも泣き出しそうなほど不安げに瞳を揺らしていることに気がついた。 でもいくら葵の前とはいえ、形式上の仲直りをすることは出来ない。 最初にそっぽを向いて立ち去ったのは爽のほうだった。聖の思わぬ本音を聞いてまだ怒りが収まらないようで、葵に対しての言葉も何も掛けずに行ってしまう。

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