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act.2追憶プレリュード<101>

* * * * * * 施設内にあるグラウンドの更に奥には広大なバラ園が広がっている。その入口に構えられたエメラルドグリーンの屋根を持つガゼボの中に忍は足を運ばせた。 これから行われるのは迷路になっているバラ園を利用したゲーム。 ルールは単純で他学年同士ペアを組んで迷路を攻略するスピードを競うだけのものだが、普段はあまり接触できない他学年の生徒と長い時間共にいられるとあって特に一年生からは絶大な人気を誇っている。 基本的にこのバラ園での迷路ゲームのペア組は一年生に誘われたら他学年は断れない、という暗黙のルールがあるから余計だろう。 更に去年からはバラ園の中にクイズが書かれたカードが隠されていて、ゴールする際にそれに答えられれば豪華景品がもらえる、なんておまけの要素が加わったから、楽しさは倍増しているようだった。 「全く、西名さんも面倒なことを始めてくれたな」 歓迎会の準備で何が大変だったかと言えば、このクイズを考え出してカードに落とし込む作業だ。”遊び”が大好きな前年度会長が始めた追加要素は生徒からは大変好評で、続けざるを得なかった。 会長職を引き継いだ忍が愚痴を零したくなるのも無理はない。 しかし受付を終えてスタートし始める生徒たちの顔は期待に満ちているから、頑張った甲斐があったと、ガラにもなく生徒会長らしいことを思わせる。 「葵、少し休むか?」 参加を希望する生徒たちの列がある程度途切れ始めたのを見て、忍は今まで受付を一人でこなしていた葵に声を掛けた。振り返った葵は少し疲れた顔をしていたが、笑顔を携えている。 「大丈夫です、受付時間まだ5分残ってるので」 5分位構わない、と言いたくなるが葵のこうした真面目な所も忍は気に入っている。だから葵が解放されるまでの間、忍は大人しく葵の隣に腰掛けて待つことにした。 「参加率はどうだ?」 「あ、えーっと……多分ですけど、7割ぐらいですかね?」 忍からの質問に、葵は机の上に広げられた生徒名簿に目を通しながら感覚で返答を行う。 部活動紹介の後片付けを行っている生徒や、このゲームの手伝いをボランティアで行なっている生徒達の数を除けば、参加率はかなり良い方だと言えるだろう。 葵から名簿を受け取った忍が参加者の名前に目を通してみると、意外な人物の名にチェックが入っていることに気が付いた。

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