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act.2追憶プレリュード<102>

「なんだ、カラスも参加するのか?」 葵のことしか頭にない都古が葵以外の生徒とペアを組むなんて想像し難い。だが、忍の動揺をよそに葵はあっさりと頷いてみせた。 「一年の子からお願いされたみたいで。みゃーちゃんは最初嫌だって言ったんですけど、断るの可哀想って言ったら……」 どうやら葵が参加を促したようだ。ご主人様の命令となれば、きっと渋々ながら都古は参加を決意したのだろう。不快感たっぷりな都古の顔が容易に想像できる。 「お前はカラスが他の奴とペアを組むのは嫌じゃないのか?」 忍にとっては葵馬鹿で面倒な奴という印象しかないが、黙ってさえいれば都古の見た目は非常に整っている。 一つに束ねられた艶のある黒髪、短い眉と切れ長の瞳。私服が和装というだけでも目を引くが、顔立ちもすっきりとした印象を与える美男子だ。 普段丸まっていることが多いせいで目立たないが、180近い長身の持ち主だし、体も鍛え抜かれている。 口を開けば葵に甘えてばかりで台無しだが、本当に黙っていればいい男なはずだ。だからこうして新入生からペアも求められるのだろう。 「嫌?どうしてですか?」 「お前以外に親しい相手が出来るかもしれないぞ?」 「みゃーちゃんに仲良しが増えたらうれしいですよ」 忍の質問の意図が分からない、と言いたげに葵は目を丸くして見つめてくる。少し意地の悪い問いかけだと思ったのに、葵にはさっぱり意味が通じていないらしい。 「……あいつも難儀な奴だな」 妬くどころか推奨しているあたり、まだ葵に恋愛感情の芽生えはないのだろう。あれだけ全身で葵を求めている都古の思いがちっとも理解されていないと知って、忍はさすがにあのふてぶてしい猫に同情してしまう。 だが、葵にヒントを与えてやるのは癪だ。忍はそれ以上追及せず、再び名簿に視線を落とした。 「ん?あの双子も参加か」 次に気になったのはランチ後に目の前で揉めた一年の双子、聖と爽の名前だった。 「上級生にお前以外の知り合いなんて居るのか?」 「うーん…それが、初めて喋ったみたいで。ペアになってくれる人、声掛けて探したって言ってました」 なぜ双子がそんなことをするのか。忍には何となく察しが付いた。

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