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act.2追憶プレリュード<103>

「どうせ互いのタイムを競おうとしているのだろう?」 「え、なんで分かるんですか!?そうなんです、まだケンカしてて」 やはり忍の予想通りらしい。単純で子供な二人の考えることなど深く考えずとも分かるが、葵はまるで超能力者でも見るかのように驚いてみせた。 そしてすぐにシュンと眉尻を下げてしまう。受付に来た時の二人のいがみ合う様子を思い出したのだろう。 普段無邪気で子供っぽい印象が強い葵だが、憂いを秘めさせた顔をさせると少し大人びて見える。笑わせてやりたいとは思うものの、こうした表情も実は忍のお気に入りだ。 「葵、俺達も参加しようか」 「えっ、僕と会長さんとで、ですか?」 柔らかな頬を摘んで告げれば、今度は照れくさそうに視線を彷徨わせる。本当に表情がくるくると変わって飽きない。 「でも仕事が」 「もう受付は終わりだろう?出口には櫻と奈央が居るのだし、ここでやることはないはずだ」 忍からの誘いに嬉しそうに目を輝かせたくせに、すぐに乗ってくれない所がもどかしい。 「お前は来年、俺の役目をやるんだ。実際に体験しておいたほうがいいだろう?」 「僕が……?」 忍が別方向から葵に誘いを掛ければ、葵はその前の言葉に引っかかったらしい。心底不思議そうに忍を見つめ返してくる。 「今葵しか二年の役員が居ないというのに、他に誰が来年度の生徒会を率いるんだ?」 その言葉で葵は途端に不安げに表情を曇らせた。 基本的には三年と二年、五名ずつの生徒で構成されるべき生徒会。現状は三年が四名、二年が一名という危機的状況だ。 全校生徒の憧れの存在である生徒会に入りたいと願うものは多い。実際に生徒会への立候補は例年に引けを取らないぐらい来ていた。 だが、立候補する人間は大抵、生徒会の特権目当ての者か、在籍している生徒会役員に近づきたいという邪な思いを持ったものばかり。 前年度生徒会も、そして現生徒会の三年たちも、葵に過保護になるあまり、葵以外の二年を役員として引き入れることが出来なかったのだ。葵に苦労させることが目に見えているから何とかしてやりたいが、どうしても踏み切れない。 だが、唯一忍が役員候補として認めている人間がすぐ傍にいる。

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