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act.2追憶プレリュード<106>
「あの、会長さん?ここ、もう進めないんじゃ」
「まぁ見ておけ」
分からない者からしたら意味不明な行動を取っているのは分かっている。遠慮がちに進言してきた葵の言葉をやんわりと受け流し、忍はようやく指先で掴んだノブをくるりと回転させてみせた。
すると、きっちりと閉じられていた生け垣が音も無く滑るように開いていく。
「え!?なんで?」
「シッ、静かに」
あまりに予想外の出来事だったのか、声を上げた葵をやんわりと制止してバラの扉の向こうへと押しやる。他にこの隠し扉の存在がバレたら厄介だからだ。
「……ここ、は?」
扉を抜けた先は、今までのバラ園とはまるで違う景色が広がっていた。
一面の芝生に続く、くねった石畳の道。その道に沿うようにシックなデザインの街灯が並んでいた。今はまだ日が昇っている時間だが、きっと夜には街灯に吊るさられた色とりどりのフラワーアレンジメントが照らされて相当に美しい景色を作り出すのだろう。
もちろん芝生の合間を縫うように植えられた花々も、今までのバラ一色ではなく、多種多様。まるで子供の頃に見た絵本の中のワンシーンのような景色を演出していた。
「気に入ったか?」
「はい!すごく綺麗です」
葵の表情を見れば一目瞭然だったが、忍はあえて言葉でも葵の気持ちを確かめたかった。
「ここでは以前茶会が開かれていたらしい。いつからかその習慣は無くなったようだが、過去の記録を遡って記述を見つけてな。お前を連れてきたいと思っていたんだ」
石畳を進みながら、忍は葵にこの場所へと導いた経緯をそう説明した。この場所の位置を探るために施設の管理をしている庭師にまで話を聞いた、とまでは言わないあたり、プライドの高い忍らしい。
石畳の先には、入り口に設けられたガゼボとは違う色の屋根をしたものが建てられていた。傍には小さいけれど立派な彫刻が施された噴水まで設けられている。
屋根と同じ、煉瓦色のベンチへと葵を導いた忍は、自分もその隣へと腰掛けた。
「ここだけ、別の世界みたい」
まだ周りの風景に心奪われている様子の葵からはそんな呟きが漏れてくる。うっとりと目を細めて花の香を楽しんでいる姿を見れば、ようやく忍もここに連れてきた事が正しい選択肢だったと安堵することが出来た。
「葵、俺では力になれないか?」
「……え?」
「もっと頼りにしてくれ」
花に夢中になっている葵の気を引くように髪を撫でてみれば、少し驚いたような眼差しが返ってきた。
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