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act.2追憶プレリュード<107>
「そんな、もう十分、いっぱい頼っちゃってます」
「どうせ生徒会の仕事や勉強のことだろう?お前が言っているのは。俺が言いたいのはそうではない。もっと葵の深い部分に入らせてほしい」
深い部分、そういって忍が葵の胸元をノックするように叩けば、葵は否定するために首を横に振りかけ、そして動きを止めてしまう。忍を立ち入らせていない自覚がある証拠だった。
「葵、俺が好きか?」
ストレートな質問は、聞いた側の忍の胸もざわつかせる。もしここで返答に詰まられたら、いくら忍と言えど、そう簡単に立ち直れそうにない。
でも葵は、この問いには全力で頷いて答えてくれる。その瞳に嘘はない。
「そうか。俺も、葵が好きだよ」
素直に答えてくれたことを褒めるようにそっと顎を掬い上げ、唇を重ねる。戸惑ったような葵の手が忍の身に纏うブレザーを掴んでくるが、柔い抵抗だ。
「んッ…かいちょ、さん」
「少しだけ堪能させてくれ、葵」
逃げようとする葵の腰を片手で押さえ、もう片方の手でキスには邪魔な自身の眼鏡を外す。”堪能する”という言葉通り、忍はこの時間で葵ともう一歩先へ進む気でいるのだ。
「なんだ、キスぐらいでこんなに赤くなって」
まだそっと唇を触れ合わせた程度だというのに、色白の頬がすっかり赤くなっている。ウブな葵をからかうように頬を突いてやれば、フルフルと首を振って否定が返ってきた。
「ちが……あの、眼鏡してない会長さんがその…」
「ん?俺がなんだ?」
視線を彷徨わせる葵に更に己の顔を近づければ、頬の赤味がより増した。
「かっこいいな、って」
「……なんだそれは。食われたいのか?」
葵が頬を染める理由は予想外のものだった。照れくさそうにする姿にたまらずまた、今度は深く口付けを仕掛ける。
お子様な葵に合わせて今までずっと触れるだけのキスで我慢してやっていたが、自分のことを見惚れられたら忍にはもう耐えてやる理由はない。
始業式の日に櫻が仕掛けた悪戯のおかげで葵がまだまだ心身ともに子供だということは知っていたが、今朝方葵が幼馴染の京介から日常的に手を出されているという事実を察した。
あれだけの距離感で過ごしている二人だから”もしかしたら”という予感はあったが、目の当たりにするとどうしても嫉妬が湧き上がってしまう。
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