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act.2追憶プレリュード<108>*

「ふぁ…ン……んん」 角度を変えるたび、舌で腔内をなぞるたびに漏れ聞こえてくる吐息はすでに嬌声混じり。この声や、艶のある表情をすでに何度も京介は見ているはず。そう考えるとどうしても羨む気持ちは押さえきれない。 もっと葵を貪るために一度忍が長い口づけを解けば、息を上がらせた葵は袖口で濡れた口元を拭い始めた。 「葵、終わりじゃないぞ?」 「……へ?」 「色気のない声を出すな」 雰囲気を壊す間の抜けた声を叱るように今度は額へとキスを落とす。このぐらいのキスで忍の欲求不満が解消されると思うなんて、やはり葵には忍の思いが正確に伝わっていないようだ。 「あの、これはちょっと…はずかし、です」 「俺は恥ずかしくない。誰も見ていないしな」 「でもそろそろ戻らないと」 「簡単にクリアするつもりはない、と言っただろう?それとも一人で戻るか?」 葵をなかば強引に自分の膝上に向かい合うように抱き寄せれば、忍の意に反して逃れる素振りを見せだすが、一人で帰る選択肢を与えれば大人しくしがみついてきた。 「一人でなんて、帰れません」 「知っているよ。小さくて方向音痴で好奇心旺盛で、気になるものがあればすぐにふらふらしだす。そんな葵をあの巨大なバラ園に放り込んだらすぐに迷子になるだろう?」 「うぅ……会長さんのいじわる」 葵のお子様な部分を並べ立てて指摘すれば、キスで濡れた瞳を更に潤ませて見上げてくる。頬も心なしか拗ねたように膨れていた。 「そうやっていちいち可愛い反応をするから苛めたくなるんだ。葵が悪い」 勝手な言い分だが、忍の本心だ。忍は今までこんな気持ちにさせる存在に出会ったことがない。忍の一挙一動に翻弄される人間ならいくらでもいるが、その姿を愛しく思い、心を揺さぶられたのは葵だけ。 「だからもう少し、意地悪させてくれ」 葵は当然のように首を横に振ったが、拒否権など与えていない。また問答無用で唇を触れ合わせる。 今度はキスだけではない。 葵が羽織っているグレーのカーディガンの裾から一気に胸元まで手を滑り込ませた。その刺激で身を捩った葵のせいで、まだ浅く舌を絡ませる程度だった口付けはあっさりと離れてしまう。 「んッ、んん、くすぐ、た、いッ」 「それだけか葵?」 「……ぁッ、そこ、や」 シャツの上から目星を付けた場所を爪で引っ掛けてやれば、ピクリと葵の体が跳ねる。バランスを崩した葵が肩にしがみついてきたため、これ以上唇を侵すのは諦めた忍はなだめるように、今度は葵の華奢な首筋に唇を落とす。

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