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act.2追憶プレリュード<110>

「奈央は無いとすると……櫻か、カラスか」 奥手な奈央を候補からあっさりと除外した忍が思いつくのは、前科のある櫻か、その櫻を差し置いて葵と入浴するチャンスを得た都古。 問い正そうとするが、葵は忍の隙を見てシャツのボタンを留め直すのに夢中になっていて、忍が何を知りたがっているかなど気が付いていない様子。 「もし櫻がこの痕を付けたとすると、カラスが見つけて発狂するだろう?大人しく傍にいたということは……カラスか?」 「え?何が、ですか?」 葵に頼らずとも答えを導き出した忍に対し、返ってきたのはやはり間の抜けた声。忍に悪戯されたばかりだというのに、ボタンをきちんと留められた事に満足したように表情が和らいでいる。 「カラスにはどこまで許してる?」 「どこまで、というと?……って、外しちゃだめ」 「全く、俺にだけ流されやすいのなら大歓迎だが、他の男にもこうだと困るな」 忍は葵がせっかく留め直したボタンをあっさりと外しながら、あまりに無防備な葵に苦言を呈した。 「せっかくの気分が台無しだ」 他の男の影が見えただけで一気につまらなくなる。再び露わにされた鎖骨から胸元にかけてのラインに唇を這わせながら、忍はそう愚痴を零す。 まるで消毒でもするかのように、特にキスマークの上を念入りに舐めあげると、葵から溢れた甘い吐息が忍のダークグレーの髪を揺らしだした。 「んッ…ごめ、なさい」 「謝るぐらいなら簡単に触らせるんじゃない。どうせ俺がなぜ苛立っているかなど理解できていないんだろう?」 忍が明らかにテンションを落としたことを察した葵が刺激に耐えながら謝罪を口にしてくる姿は、加虐心を煽ってくる。葵のガードが緩すぎるのを良い事に手を出しまくっている忍が叱る筋合いはないのだが、つい口調がきつくなるのを止められない。 「お前のペースに合わせてやりたいと思っているのに」 それは忍の本音ではあるが、体が言うことを聞かない。今だって忍が舌先で突起をくすぐるだけで背中を反らして悶える程敏感な葵を前にすると、自分の欲望を抑えるので精一杯だ。 だが、友人の暴走で傷ついた葵を救ったのは他でもない忍。葵に恐怖心を植え付けるのは本望ではない。 名残を惜しむようにチュッと音を立てて胸から唇を離した忍は、瞳を潤ませてぐったりともたれかかってくる葵に視線を戻した。

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