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act.2追憶プレリュード<111>

「葵?」 「ん……ごめん、なさい」 ぐすぐすと啜り泣きでまた謝ってくる健気な葵の様子に、さすがに忍も胸が痛む。 櫻が葵に強引に手を出そうとした時もそうだった。訳の分からぬままの行為に葵は確かに恐怖を感じて泣きじゃくっていたけれど、決して櫻のことを恨んだりはせず、受け入れようと必死だった。 今も忍の苛立ちの原因が分からないくせに、必死にすがってこようとする。これを愛しく思わないわけがない。 「これ以上夢中にさせるな、葵。本気で抱くぞ」 「いい、です。ぎゅってしたい」 「そういう”抱く”じゃない。全く、なんでそう可愛いんだお前は」 忍の脅しを勘違いして、自ら抱きついてこられると今すぐにでも押し倒したい欲が溢れて止まらなくなる。 忍の頬をくすぐる金糸のような細い髪と、動くたびにふわりと香る独特の甘い肌の香と、何より華奢なくせに柔らかな感触を与える身体。全てが忍を魅了して離さない。 「葵、今夜は俺の部屋に来い」 「会長さんの、部屋に?」 忍が細い腰を抱きしめ返してそう持ちかけると、忍の声音から怒りが消えたことを察した葵も安堵したように表情を和らげて尋ね返してきた。 「あぁ、誰にも言わずにおいで」 耳を隠すほどの長さの髪をそっと払い、現れた耳を齧りながら囁いた誘い。部屋に寄越した葵に何をするつもりか、なんて明らかなのに、葵は一人で就寝せずに済むと悟って嬉しそうに微笑んできた。 危機感など全くない様子にいよいよ忍も呆れ返るしか無い。随分と大胆に口説いているというのに、どうやっても伝わらないのだ。 だから忍は更にセクハラの度合いを上げてみる。 「めいっぱい可愛がってやる。続きも、してやろう」 「えッどこ触って…」 “続き”と言って忍が手を伸ばしたのはカーディガンの裾で隠したスラックスのチャック部分。まだ触れていないそこは指でそっとなぞると、少しだけ硬い弾力が伝わってくる。キスと胸への愛撫で下半身もしっかりと反応しだしたのだろう。

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