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act.2追憶プレリュード<121>

「付き合ってもいいよ、だってさ。”付き合う”っていうのがそもそも分かってないみたいだね、あの子」 櫻が告白時の様子を二人に教えてやれば、京介はぐしゃぐしゃとオレンジ色の髪を掻きむしり、都古は思い切り眉をひそめて舌打ちをしてみせた。 その様子を見て勘のいい忍は今回の発端となった彼らの心情を察する。 「……あぁ、だからか。葵が訳の分からぬまま誰かと付き合う可能性があると思って、過剰反応している、と」 「なるほどね」 忍の考察に櫻も納得の頷きを返した。京介と都古から否定の言葉が出てこない所を見ると、図星なのだろう。 「っていうかさ、西名がああいうお子様に育てたんでしょ?僕が幼馴染って美味しい立場ならとっくに付き合って食べまくってるけどね」 「……幼馴染が俺だけなら、な」 櫻に甲斐性の無さを馬鹿にされた京介は、不快そうに櫻を睨みながら盲点を指摘し返した。 「そっか、西名さんと相良さんも居るのか。それはヤだね」 京介の言い分で櫻は卒業した二人の先輩の存在を思い出した。 幼稚舎の頃から奇人、西名冬耶の存在は目立っていた。 初等部でピアスを開けたり髪を奇抜な色に染め出したりと、一見不良にしか見えない彼だったが、学業の成績はずば抜けて優秀。そして何より、彼の人心掌握術もまた凄まじい威力を放っていた。 最初は目立つ彼を遠巻きに見ていた同学年の生徒はもちろん、他学年、教師までも着実に味方に付け、いつのまにか学園中を治める存在に昇り詰めた冬耶。 その存在感からか、”魔王”という異名まで与えられ、卒業した今でも彼の影響は随所に残っている。 そしてそんな彼を唯一コントロール出来る存在が、一見穏やかな好青年に見える相良遥。 冬耶を巧みに操る裏の支配者で絶対に怒らせてはいけない人物として認識されている彼は、魔王の対となる者として、地獄の番人”閻魔”なんて物騒な呼ばれ方をすることさえあった。 対する京介と言えば、目つきも態度も口も悪いが、実は葵に対しては随分と世話焼きで損な役回りばかり買って出ているだけの一般生徒。 今回のようなトラブルや、不良同士の喧嘩を起こすことはあるが、冬耶や遥のような得体の知れない超人の要素は持っていない。 冬耶と遥にめいっぱい溺愛されている葵を独り占めすることなど、彼には難易度が高すぎるものだということは容易に想像がついた。

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