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act.2追憶プレリュード<125>

「今日の試合、どうやった?」 幸樹が持ちかけてきたのは昼に行われたバスケの試合のこと。京介の呼びかけで助っ人として現れた幸樹は、スポーツに疎い葵の目から見ても大いに活躍していた。 「上野先輩、かっこよかったです!いっぱいゴール決めて、すごかった!」 子供っぽい感想しか言えないが、葵はただ素直に幸樹に対して思ったことを口にする。 「ほんまに?かっこよかった?」 「はい!今度教えてください」 「藤沢ちゃんがバスケ?似合わんなぁ」 幸樹にはそう言ってケラケラと笑われてしまうが、葵は至って本気だった。 生まれつき虚弱な体質と、日光に弱い肌をしているため、体育の授業は見学ばかり。そのせいで運動全般苦手だが、コントロールも悪い葵は特に球技が出来ないことがコンプレックスだった。 体調がいい日には積極的に体育に参加してみるが、いつもチームメイトの足を引っ張ってばかり。 中等部で七瀬や綾瀬と友達になってから、徐々に同級生とも会話出来るようになったが、それまでは京介しか頼れる人がおらず、失敗しては周りに責められたり、笑われたりしていたのだ。 「出来ないこと、沢山あるのがいやなんです」 「そんなん普通やん。みんなそうやで」 苦い思い出が溢れてきてつい愚痴を零してしまえば、幸樹は当たり前のことだと断言してくれる。でも葵は首を横に振った。 「悪いとこ、全部なおさなきゃ」 「うーん、悪いとこって例えば?」 幸樹が不思議そうに葵の顔を覗き込んでくる。でも葵からすれば、自分は人よりも劣っている所ばかりなのだ。 「可愛くて、ちっこくて、真面目で。ほんで俺みたいなのにも優しくしてくれるやん?どこに悪いとこあんのよ」 また幸樹は“ちいさい”と葵を表現したが、学園内でも1、2を争う長身の彼に何も言い返せない。 「悪いとこ、ないですか?」 「うん、少なくとも俺は知らん。思ったこともないわ」 「じゃあ……」 幸樹の言葉で新たに浮かんだ疑問。幸樹にそれをぶつけて良いものか悩んだが、促すように幸樹が頬を突いてくるから、意を決して口を開く。 「憎く、なっちゃいますか?」 「はい!?なんでそうなんの。突拍子もないなぁ」 葵の発言があまりにおかしなものだったのか、幸樹は頬を突くのを止めて、叱るようにキュッと摘んでくる。 「だって……悪いとこが見えないと、段々憎くなるって。だから気をつけなさいって」 「そんなん誰に言われたん?」 「えっと、先輩に」 「誰?教えなさい」 口ごもるが、もう一度頬を摘んでくる幸樹の指に力が入るから葵はとうとう観念して、昼間の未里との会話を告げた。すると幸樹は未里のことを知っていたのか、あまり葵が目にすることのない苦い顔になる。

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