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act.2追憶プレリュード<126>
「あぁ、アイツな。気にせんでええよ。羨ましいだけやから」
「羨ましいってどうして……だろう」
一つ年上の先輩が自分を羨ましがる理由が分からない。
周りから可愛いと表現されるのはただ単に発達しない小さな体のせいだと思っているし、勉強だって元から出来るわけではなく毎回必死で努力しての結果だ。
例えば幸樹のような長身で逞しい体の持ち主や、机に向かう姿など全く見せずに全国トップクラスの成績を叩き出した冬耶のような頭脳の持ち主。そんな人達を羨ましがるなら分かるのだが、葵はどう考えてもかすりもしない。
「ダメなとこがあっても嫌われちゃって、でもダメなとこがなくても嫌われちゃうって。どうしたらいいんだろう」
未里から与えられた言葉はまだぐるぐると葵の中に矛盾を生み出して悩ませる。
嫌われたくない。憎まれたくない。一人になりたくない。
そう願うのに、一方で幸せになってはだめ、愛されてはだめ、求めてはだめ。そんな戒めにも捕らわれている。そもそもの葵の心がバランスを失っているのだ。
「こらこら、悩まんの。せっかくのデートなんやし、楽しい話しよ、な?」
幸樹がそう言って葵を負の感情の迷路から救い出そうとしてくれる。背中から抱きしめる温かな手は、肩から滑り落ちそうになっていたブランケットを元の位置に戻してもくれる。
「デートするっていう俺の願い事、叶えてくれたから。今度は藤沢ちゃんの願い、叶えたる。そしたら元気でる?」
幸樹はさらにそんなことを申し出てきた。
「お願いって一個まで、ですか?」
「なに、何個したいん?」
問われて、葵は頭に願い事を思い浮かべながら指折り数えていく。
「ちょ、ちょ、待って藤沢ちゃん。一体何個あんのよ」
でも両手全ての指が折られる前に、焦った幸樹に止められてしまった。葵の小さな手は幸樹の手が包み込めばすっぽりと隠されてしまう。
「えっと、まだあります……けど」
「案外欲張りさんやな。なんか聞くの怖いけど、まず一個目聞きましょか?」
幸樹には少し呆れられてしまったようだが、普段あまり顔を合わせることが出来ない彼に伝えたいことが沢山あるのだ。
「一個目は”もっと会いたい”です」
「な、何なんそれ」
「上野先輩、全然生徒会来てくれないから、寂しくて」
「ちゃう、理由やなくて。何でそんな可愛いこと言うん?」
明るい茶色の瞳がジッと葵を見つめてくる。彼の口元にはいつもの笑みはなく、珍しく真剣な表情。
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