206 / 1393

act.2追憶プレリュード<128>

「今日が藤沢ちゃんとのファーストキス記念日やね。んで、セカンドも、な」 もう一度短いキスを送って悪戯っぽく笑う幸樹につられて、葵も思わず笑顔になる。 「ほんじゃ、可愛いお姫様。キスの回数分、さっきのお願いから二個叶えてあげましょか」 「え、二個だけですか?」 「もっとキスする?」 お願いを聞いてもらうにはもっとキスしなくてはならないらしい。最初はデートのお礼、という名目でお願いを聞いてもらえるはずだったのに、おかしな話である。 でも、葵はすっかり流されてしまっていて真剣に幸樹への願い事を二つ、考え始めた。 「じゃあひとつ目は……」 「おう、何?」 「生徒会、ちゃんと来て欲しいです」 「えぇぇそれ?」 幸樹は葵の願いに少々不満そうだったが、生徒会にさえ来てくれれば一緒にごはんを食べたり、活動が終わったらそのまま遊びに行くことだって叶う。幸樹と共に過ごす時間を増やすには総合的に考えるとこの願いが一番効果的に思えたのだ。 「わかった。じゃあもうちょい行くようにするわ。藤沢ちゃんに会いにな。で、二個目は?」 仕事をしに来てほしいのだが、何はともあれ約束してくれるのは嬉しい。だから葵は思いついた二個目の願いを口にする。 「……たばこ」 「ん?なに?」 「たばこ、京ちゃんと一緒にやめてほしいです」 幸樹も京介も、高校生だというのに当たり前のように喫煙している。せめて成人するまではやめてほしい、と常々思っていた。 「え、なんで?きらいなん?」 新しい願い事に面食らった様子の幸樹からは不安げに尋ねられるが、嫌いというわけではない。独特の香りが煙いと思うことはあるが、二人の目印にもなるから嗅ぐと安心さえする。 「この間テレビで見たんです、未成年でたばこ吸うのって本当に体に悪いって。上野先輩も京ちゃんも、具合悪くなっちゃったらイヤだから」 幸樹も京介も、高校生と言えど、一般の成人男性と比べると成熟しすぎなぐらい育っているが、そんなことは関係ない。ヘビースモーカーな彼らの体が煙草に蝕まれていることが心配でたまらなかった。 葵の表情から、それが真剣な願い事だと分かってくれたのか、幸樹はまたあの明るい笑顔でぐしゃぐしゃと髪をかき乱してきた。 「わかった、努力する。でも京介のことまでは面倒見られへんよ」 「はい!京ちゃんにはもう一回お願いしてみます」 「聞くかなぁ?あいつ」 幸樹の言うとおり、京介には今まで何度も頼み込んでいるのになかなかウンと言ってくれない。 でも、そんなに魅力的なのかと思い、自分もちょっとだけ吸ってみたいと葵が言ってみたら、とてつもなく叱られてしまった。 思えば、京介は平気で夜遅く外出するのに、葵がするのは絶対に許してくれない。京介が16歳になるとすぐに取得したバイクの免許を、葵も取りたいと言ってみた時もそうだった。非常に理不尽な幼馴染である。

ともだちにシェアしよう!