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act.2追憶プレリュード<147>

* * * * * * 広間のテーブルいっぱいに並べられた朝食。本来なら食欲をそそるほど美味しそうに見えるが、生憎聖は味など分かる状態ではなかった。 焼きたてのクロワッサンをかじりながら、同じテーブルにつく同室者の三年と二年の顔を見比べる。二泊三日のイベントだと言うのに、彼らとはまだまともに言葉を交わしていなかった。 とはいえ、爽と仲違いしてから居場所が無くなった聖は大人しくこのグループに所属するしかない。 同じ空間にいる相棒を見やれば、爽もまた、同室者と同じテーブルにつきながらつまらなそうに食事を続けている。 意地を張らずに聖から声をかけるべきなのかもしれないが、先に喧嘩を売ってきたのは爽のほうだ。簡単に折れるのは嫌だった。 それに聖が食事に集中できない理由は他にもある。 昨日バラ園での迷路を使ったゲームで無事に上位入賞することが出来たことを葵に報告しようと思ったのに、あれから一度も葵の姿を見ていない。生徒会のメンバーを捕まえて尋ねてみたが、体調を崩した、としか教えてもらえなかった。 それに気になるのは京介と都古も、ちっとも姿を現さないこと。ダメ押しは、生徒会指示の元、昨夜一斉に行われた全室内の検査。目的は分からなかったが、生徒たちは何かあったのではないかと口々に噂していた。 葵と交流のある聖なら情報を知っているのではないかと、無遠慮に聞いてくる生徒たちもいたが、何も答える事ができない。 仮に知っていたとしても噂に群がるハイエナのような彼らに餌を与えるつもりもなかったが、知っていて答えないという選択肢をとることと、知らないから答えられないのとでは丸っきり意味が違う。 まだ葵のことを何も知らない。葵に寄り添える存在として、認められていない。そんな現状がますます聖の気持ちを暗くしていた。 惰性で進めていた食事がそろそろ終わる、という頃。広間の入り口がざわつき始めたことに気が付いた。 思わず聖も周りと同じように入り口に視線をやると、すぐにその理由に気がつくことが出来た。 オレンジと黒。対象的な髪色の二人組は先程聖が思い浮かべていた人物、京介と都古だった。

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