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act.2追憶プレリュード<149>

「……爽」 自分と全く同じ顔をして、そしていつもよりも不機嫌な表情を浮かべている彼を呼びかければ、無言の返事が目線だけで返ってくる。 “いつも自分の背中に隠れているひ弱” 彼の怒りのスイッチを入れてしまったこの言葉。聖が本気でそんなことを思っているわけがない。 いくら葵に勝手に会いに行く、なんて抜け駆けをして最初に聖を挑発したのが爽だとしても、自分が明らかに言い過ぎたことがこの喧嘩を長引かせているのは分かっている。 “ごめん” その一言を発すればいいのに、素直に言えない。 “我儘の尻拭いをしている” そう爽に言われたことが胸に引っかかっているのだ。 呼びかけたくせにそれ以上の言葉が出てこない聖に痺れを切らしたのか、爽が先に口を開いた。 「葵先輩のことは、譲りたくない」 まるでいつも聖に譲ってきたかのような爽の口ぶり。でも思い返してみれば、一つしかないものを取り合う時は、”お兄ちゃんだから”なんて言い張って爽の手から奪ってきたことが多い気がする。 「俺は聖より劣ってるところばっかだけど、でも葵先輩は諦めない」 そう宣言して爽は自席へと戻ってしまった。”劣ってる”と爽が自分を評価するきっかけはいくつか思い当たる。 葵と出会う少し前。入学式を桜の樹の下でサボっていた時に、舞い散る桜の花びらを聖が器用に掴んで見せたのに対し、爽は繰り返し失敗していた。 でもそれは大したことのない違い。勉強だって同じくらい出来るし、運動も同じくだ。“劣性”だと自分を卑下しているなんて思いもしなかった。 葵を欲しいと思う気持ちは同じだが、聖はそのせいで爽と争いたいなんて微塵も考えていない。ふざけて張り合うことはしてきたが、聖の理想は爽と二人で葵と仲良くすることなのだ。 けれど、爽は葵を独り占めしたがっている。そのためには聖と離れる意志すら感じられた。 不意に訪れた相棒との別れの可能性。 急激に心細くなった聖がその気持ちを吐露する先として思い浮かぶ相手は、この学園でただ一人しかいなかった。

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