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act.2追憶プレリュード<150>
* * * * * *
歓迎会最終日は前日行われた部活動紹介に対する人気投票の結果発表が実施される。今頃ホールに全校生徒が集まり、忍が発表を行っている頃だろうか。
冬耶は葵の寝顔を見つめながら、卒業したばかりの学園のイベントが無事進行されるよう、思いを馳せた。
「北条なら心配しなくても大丈夫か」
大企業の御曹司である彼は成績優秀で、小さい頃から将来人を束ねられるよう教育を受けてきたが、周囲の期待に反して学園の統治には無関心だった。中等部から生徒会に携わっていた冬耶は何度となく役員候補として忍に声を掛けたが、答えはノー。
冬耶が盛り上げた学園のイベント事には一貫して無関心で冷めた様子の彼は、必死になる冬耶の姿に馬鹿にしたような目すら向けてきたことがあった。
けれど、今年度の生徒会役員候補を決める選挙の期限ギリギリに忍は冬耶に頭を下げてきた。立候補とはいえ、選挙に出るには現役生徒会役員の推薦が必須。それを願いに来たのだ。
ノーブルな見た目に反し、学園中の生徒と遊んでいた彼の私生活を、冬耶は役員に唯一そぐわない部分として懸念していたのだったが、それすら全て断ち切ってきたと宣言してきた。
「あーちゃんはすごいね。あの北条をお堅い生徒会長に変えちゃうなんて」
忍の急な心変わりの理由は、目の前で眠る葵に他ならない。それまで接点がなかったはずの二人がどこで巡り会い、どのようなやりとりをしたのか。いくら考えてみても答えが出ない。聞くのは野暮な気がしてぐっと堪えている状態だ。
「月島も、だったね。どんな風に口説いたんだか」
忍と同じく、高飛車だった櫻までもが選挙に名乗りを上げてきた。相変わらずツンケンとした態度の彼は、学園のためなんて綺麗事は並べ立てず、面白そうだからと、ただそれだけを告げて申請書類を渡してきた。
櫻に至っては真面目に活動しているかというと、少々疑問が残るところではあるが、彼が今更ながら学園に馴染み始めてくれたのは単純に喜ばしいことだと冬耶は思う。
「お兄ちゃんとはるちゃんが居なくても大丈夫だと思ったんだけどな」
自分たちが抜ける代わりに、そうして新たに葵を大事にしてくれる人物が生徒会というテリトリーに参入してくれた。だからしばらくは寂しがるだろうが、ここまで大きく葵の心が崩れるとはさすがの冬耶も予想していなかった。
まともな食事をとっていないのか、冬耶の記憶よりも少し頬の膨らみが萎んでしまったように見える葵。確かめるように頬に手を伸ばせば、柔らかい肌の感触がやはりわずかに弾力を失っているようだ。
そうして頬に触れ続けていると、段々と眠りが浅くなってきたのだろう。葵が身動ぎを始める。
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