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act.2追憶プレリュード<152>

「あーちゃん、歓迎会楽しかった?」 どの程度葵の記憶が混乱しているのか。まともな状態ではないことが明らかな葵を少しずつ軌道修正させるためには、確認作業が必要だ。だから冬耶は手始めにこんな質問を投げかけてみた。 「うん、あのね、京ちゃんがバスケしたんだよ」 「京介が?」 「バスケ部の人とね、戦ったの。みゃーちゃんも上野先輩も、あやくんも、ななちゃんも出たんだ」 「なんだそのメンツ。すごいな」 葵がキラキラと目を輝かせて一番に告げてきたのは冬耶ですら想像の付かない光景。 運動神経が良いくせに面倒くさがりな都古を始め、あまり人前に出てこない幸樹、そして互いのことしか頭にないバカップルな双子。どう考えてもまとまりのないチームだ。 「京ちゃんたちが勝ったんだけど、バスケ部の人がお願いして延長戦になったんだよ」 「へぇ、で、最後は?やっぱり勝ったの?」 冬耶が先を促してやれば、葵は途端に困った顔になる。 「あれ?どう、だったっけ……ジュース差し入れしようと思って体育館出て、バスケ部の人に話しかけられて……」 薄まっている記憶を懸命に辿り始めた葵には悪いが、冬耶は京介から大まかに歓迎会中葵の身の回りで起こったことは聞かされていた。 葵が正確に思い出せない部分は、記憶を一時的に抹消させたいと思う程辛かった出来事のはず。 思いの外順調にその後の記憶を話しだした葵が唯一完全に言葉に詰まったのは、やはり昨夜の出来事だった。 「あれからずっと……寝ちゃってた、のかな」 ぼんやりとした記憶の最後は、幸樹とデートに出かける前のこと。葵はこの部屋で眠りにつき、そして今こうして目覚めたのだと無理やり繋げて納得しようとしているようだった。 何かがおかしい。葵自身もどこかでそれを感じているのか、こめかみを押さえて目を伏せてしまう。 記憶を掘り起こすことで感じる痛みのせいでうずくまった葵を、自分の大きな体で潰さないよう配慮しながら冬耶は抱き締めて慰める。 「皆とはもっと仲良くなれた?」 「皆と……あ、会長さんが……」 葵の注意を逸らすように投げかけた質問は、珍しく冬耶の読みをはずれ、更に葵を困惑させてしまったようだった。 胸に顔を寄せてきたせいで冬耶からは葵の表情が見えないが、体が小刻みに震えだしたことは分かる。 「北条が?どうした?」 「名前……呼んでほしい、って」 葵の震えの原因が分かって、冬耶はこっそりと息を吐き出した。そして、葵があれほどの行動を起こすほど過去の記憶を蘇らせたきっかけがこれなのだろうと、ようやく合点がいった。

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