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act.2追憶プレリュード<157>
「その茶葉、いくらすると思ってるんですか?」
「……え、高いやつ?」
「いいです、僕が淹れますから。西名さんはこれ以上触らないで。出てって下さい」
怒りを隠しもせず、櫻はそう言って冬耶を睨みつけ、強引に給湯室から追い出してしまった。ついで、とばかりに忍まで。とんだとばっちりである。
「つっきー、怒っちゃったなぁ。ちょっと失敗しただけなのに」
「あれは西名さんが悪いと思いますよ。それに、もし彼に謝りたいならそのあだ名で呼ぶのはやめるようオススメします」
あくまで櫻が怒り過ぎだと主張する冬耶に、忍は一応親切に忠告を入れてやった。櫻は機嫌を悪くすると、生徒会の仕事すら平気で放棄し始めるから困るのだ。
「……葵は?」
「今みや君が一緒に居るよ。イベント終わった瞬間に飛び出てきたみたい」
談話室へと戻る前に忍が葵の様子を確認する問いを投げかければ、冬耶からは少し意図とは違う返事が戻ってくる。自分が終了の挨拶を告げた瞬間に身を翻した失礼な生徒のことは壇上にいた忍からはよく見えていたし、そんな事を聞きたいわけではない。
「なっちから聞かなかった?あーちゃん、昨日のこと覚えてないから。そのつもりでよろしくね」
「聞きました。昨日のこと、というのはどこまで?」
談話室の扉を開けようとノブに手を掛ける冬耶を、忍は質問で制止する。
あのバラ園での二人きりの時間は、自分なりに葵と少し距離を縮められた貴重なものだった。それすらも葵が忘れてしまっていたら。そう思うとどうしても確かめずにはいられなかったのだ。
でも冬耶から返ってきたのは、幸樹と出掛けたことだけ忘れているという事実。安堵する忍を残して、冬耶はそれ以上答えるつもりがないと言わんばかりに今度こそ、室内に入ってしまった。
談話室の中では、葵がソファに腰掛けながら飼い猫、都古に膝枕をしてやっていた。密着具合が腹立たしいが、それよりもまず、葵が笑顔を浮かべていることが何よりも忍を安心させる。
「葵」
名を呼べば、都古との会話に夢中になっていた葵は一瞬驚いたように体を跳ねさせ、そしてこちらを見つめ返してくれる。けれど、笑顔だったはずの表情はあっという間に泣きそうに歪んでしまう。
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