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act.2追憶プレリュード<158>

「ごめんなさい」 何も言っていないというのに、また葵に謝られてしまった。それほどまで自分は責めているような雰囲気を出しているのだろうか。いよいよ忍も自分の顔つきに自信がなくなってくる。そして何と声を掛けてよいのかが分からない。 そんな状態を救ったのは、固まる葵の元へ一足先に到着した冬耶だった。 「あーちゃん、いきなり謝るだけじゃ北条困っちゃうよ。仕事お休みしちゃったの、謝りたいんだろ?」 冬耶がそう促せば、葵は少しだけ戸惑った様子を見せたものの、こくんと頷いてまた忍を見つめてきた。 「なんだ、そんなこと。気にしなくて構わない。お前の友人が代わりにきちんと仕事をこなしてくれたよ」 「……友達?」 「羽田の双子だ」 忍が告げれば、葵はようやく強張っていた表情を緩めてくれた。気の置けない友人を思い浮かべて緊張がほぐれたのだろう。 いつか自分に対してもこうした態度を見せてほしいが、そうさせてやれないのは忍自身に責任があるのだと反省する。 そして、葵の膝に頭を乗せる都古や、傍に寄り添う冬耶が、まるで自分を近づけないようバリアを張っているかのように思えてくる。どうにもやりきれない。 忍が今出来ることは焦らずにゆっくりと距離を縮めていくこと。 「今年は例年の記録よりも、人気投票の投票率が抜群によかった。葵が受付で一人ひとりに丁寧に案内したおかげだよ」 葵が役員としての仕事を全う出来なかったことを気にしているのなら、葵の存在がどれだけ生徒会の救いになっているか。それを伝えたい。 だから忍がそうして具体的な事実を伝えてやれば、またしても葵の表情がくしゃりと歪む。けれど、それは先程のような悲しげなものではなく、くすぐったさをこらえるような、そんなものだった。 「葵。年下だからと、雑用までいつも一人でこなして。本当に感謝しているよ。でも、どうかもう少し頼って欲しい。一緒に作り上げるべきものなんだから」 葵を追い詰めるような、そんな口調にならないよう、最大限配慮し、言葉を選びながら語りかける。言葉に合わせ、葵の淡い色をした髪を撫でることも忘れない。 自分の掛けた言葉はどうやら不正解、ではなかったようだ。 そうしてしばらく葵の柔らかな髪の感触を味わっていると、ようやく忍の大好きな笑顔を浮かべてくれた。

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