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act.2追憶プレリュード<159>

* * * * * * 「お疲れ様、もう解散していいよ」 いつのまにか姿を消したトップ二人の代わりに、生徒たちを指揮していたのは奈央だった。こうして手伝ってくれた彼らに一人ずつ声を掛けて退出を促している。 そうして次は葵の代理として張り切ってくれた綾瀬と七瀬を労おうとした時だった。 「奈央さま、お疲れ様です」 注意を払っていなかった方向から不意に声を掛けられ振り返ると、そこには自分のファンを名乗る福田未里が待ち構えていた。 「あぁ、福田くんもありがとう。色々手伝ってくれて」 「いえ、奈央さまのためなら何でもします!」 同級生だというのに、彼は奈央に対して敬語を崩さない。大げさなくらい崇拝しているような態度を続けられると、奈央には少々居心地が悪いものがある。 昨年度の生徒会役員を決定するための選挙で半ば強引に冬耶に引き込まれてしまうまで、奈央は比較的目立たない生徒として過ごしていたはずだったのだが、生徒会に入ってからは格段に注目の度合いが増えた。 未里のように自分に好意を寄せる生徒も少なくはない自覚はある。けれど、この未里に至っては、奈央が生徒会に入る前からずっとこんな調子なのだ。 「良かったら召し上がって下さい。」 渡されたのは有名な洋菓子店のロゴの入った紙袋。以前ももらったことのあるチョコレート菓子だろう。 「このあいだ美味しかったって言ってくださったから、また持ってきちゃいました」 にこりと微笑む彼は、男子としては可愛らしい部類に入ると思う。実際に未里自身にも彼を慕う取り巻きのような生徒が何人か付いているのを奈央は何度か見かけたことがある。 どうしてここまで自分を慕うのか、奈央には理由が分からない。 「ありがとう。でもこういうのは、受け取れないって言ったよね」 「でも……」 差し出された紙袋に手を伸ばさず、奈央がやんわりと拒絶を示せば、未里は傷ついたような顔でシュンとうなだれてしまう。こうされるとこれ以上断る言葉を重ねるのは奈央の性格上、難しい。前回も”今回だけ”、そういう約束で受け取ってしまったのだ。 仕方ないか、そんな諦めの元、奈央が口を開きかけた時だった。

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