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act.2追憶プレリュード<161>
「すみません高山さん。思ったことがすぐ口に出るタイプで」
「だって、あやもあの人嫌な感じしなかった?」
恋人の腕の中にくるまった七瀬は、まだ懲りずに未里への嫌悪感を露わにする。
「高山さん、あの人あんまり葵ちゃんに近づけないでね」
「どうして?」
「だって、あの人高山さんのこと好きなんでしょ?葵ちゃんと近づけても良いことないじゃん」
説明されても奈央には七瀬の警戒の理由が分からない。無言で思案する素振りをみせれば、七瀬だけでなく、綾瀬まで厳しい表情になってしまった。
「だーかーらー、三角関係なんだからあの人が葵ちゃんに嫉妬するのは当たり前じゃん。あの人は高山さんのこと好きで、高山さんは葵ちゃんのこと好きで……」
「え、え?ちょっと待って、僕が好きって?」
「……まさか、高山さん、無自覚なの?葵ちゃんにラブなの」
七瀬の言葉を慌てて遮れば、今度は心底呆れたような目を向けられてしまう。もちろん綾瀬も同じく、だ。
目元のほくろ以外似た部分がないと思っていたが、思考回路は双子らしく似通っているらしい。
「僕は、ただ葵くんのことは後輩なんだけど、弟みたいに可愛いっていうか……だから、その」
「もういいよ、高山さん。わかった。高山さんは葵ちゃんと同じ人種だ」
「同じ人種?」
奈央が必死になって重ねた言い訳は七瀬によってあっさりと止められてしまった。今度は悪戯を思いついたような笑顔を浮かべている。
「京介っちに報告しよーっと」
「なんで!?何を!?」
にやにやと笑う七瀬には嫌な予感しかしない。きっと本当に京介に何かを報告しに行くつもりなのだろう。
くるりと向きを変えて、あっという間に出口に向かってしまった七瀬を、奈央は捕まえることが出来なかった。綾瀬も軽く頭を下げて七瀬の後を追ってしまう。
葵よりも更に小柄な七瀬と、そこそこ長身な綾瀬のでこぼこの影を見送りながら、奈央はこっそり溜息を零した。ただでさえ冬耶や、忍、櫻に振り回されているというのに、後輩にまでもからかわれる始末。さすがに自分が情けない。
けれど、ふと気を抜けば葵のことばかり考えてしまう状態は、嵐のような彼らと接している時間のおかげで薄まってくれる。そうでなければ考え込みすぎてとっくにおかしくなっていたかもしれない。
目覚めているらしい葵とどんな顔して会えばよいのか。
別館に向かう道すがら、奈央は忘れかけていたそんな戸惑いを思い出してまた深く息を吐いてしまう。
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