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act.2追憶プレリュード<164>
帰途につく生徒たちの間を逆走して別館に辿り着けば、その入口には避けていた双子の相棒、聖が待ち構えていた。気まずそうな表情を浮かべていた彼は、爽がキャリーを持っているのを見咎めて少しだけ眉をひそめてみせる。
「……先、帰るつもりだったの?」
図星を突かれ返答に困った爽を見て、聖は更に責め立てるような言葉を並べようと口を開きかけたが、グッと堪えるように身を翻すと扉脇に設置されているセキュリティ装置にパスを打ち込んで中に入ってしまう。
爽も慌ててその後を追いかけた。
初めて入る別館の中は、爽が泊まっていた本館よりも手の込んだ内装をしていた。思わずキョロキョロと辺りを見渡してしまうが、聖は真っ直ぐに廊下を突き進んで、一際美しい彫り物が施されている扉へと進んでいった。
「中に葵先輩、居るから」
聖は扉の前で足を止め、爽だけに中に入るよう促してくる。
一体、聖はどういうつもりなのだろうか。伺うように聖を見やれば、フイっと視線を逸らされてしまう。無愛想、というよりはどこか照れ臭さを隠すような素振りに見える。
ますます爽には訳が分からないが、とにかくこの部屋に入るしかないようだ。一人で進むのは心細いが、爽は聖を残し、扉のノブに手を掛けた。
室内はシックなデザインの調度品で統一されていた。その中で一際美しく目立っているのは刺繍が施されたソファセット。
そこに腰掛けているのは爽が恋する存在、葵だった。けれど葵一人ではない。葵に寄り添うように、見覚えのないピアスだらけの青年がこちらを見てくるのだ。
体調不良だと聞いていた葵は確かに顔色が悪かったが、爽の想像よりも柔らかい表情を携えている。
「爽くん、呼び出してごめんね」
「いや、それは全然いいんすけど……その……誰っすか?」
ふわりと笑いかけてくれる葵に対し、爽は遠慮がちに隣の人物の素性を確かめた。すると、葵が答えるよりも先に青年が口を開いてくれる。
「西名冬耶、前年度の生徒会長で、京介とあーちゃんのお兄ちゃんです。よろしくな、爽くん」
いたって簡潔な自己紹介。”あーちゃん”と言って葵の肩を抱き寄せる仕草は、悪そうな見た目に反して甘ったるい。葵も冬耶と名乗った彼に甘えるように擦り寄っている。
少しだけ悔しい気持ちが頭をもたげるが、圧倒的な存在感を放つ冬耶を前にして一人で対抗する気は起きない。
「あのね、聖くんがさっき来て色々話したの」
「聖が?……何、話したんすか?」
自分には散々抜け駆けをしたと責めたくせに、自分はちゃっかり一人きりで葵に会いに来ていた。その事実が爽を不機嫌にさせる。
けれど、続けて葵から告げられた言葉は思いがけないものだった。
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