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act.2追憶プレリュード<166>

「呼び方でケンカしちゃったの?言ってくれたら直すのに」 「それだけじゃないっす。聖は俺よりも器用で何でも先にやっちゃうから。色々苛ついちゃっただけ」 葵の放つ柔らかな雰囲気に邪気が失われ、聖との争いなどどうでも良くなってきた。だからだろうか、素直に普段抱えている聖への劣等感も言葉にして吐き出すことが出来る。 「でも爽くんが出来て、聖くんが出来ないこともいっぱいあるよ?」 慰めるように爽の頭に手を伸ばしてきた葵が言葉でもそうして爽を癒そうとしてくれた。 「そんなもの、ないっすよ。勉強もスポーツも、聖は俺よりいつもちょっと上なんです」 「あるよ」 目に見えて実感する差を爽が口にしてもなお、葵ははっきりと断言する。その口調はいつもよりも強い。 「爽くんはいつもすごく気遣ってるでしょ。聖くんはそういうの苦手だもん」 双子と少し深く接触した人間は大抵逆の評価をする。口調も態度も聖のほうがお行儀が良い反面、爽は少しだけ荒い。そんな上辺の様子を見て、聖は”いい子”で爽は”悪い子”と評される。だが実際の性質は逆だ。 「いつも聖くんに譲ってあげてるよね、爽くん。聖くんはあんまり気付いてないけど」 聖が先陣を切っている事実を、葵はそんな風に表現してさえくれる。まだ付き合いが浅いというのに、そこまで見透かしている葵に爽は驚かされた。 「聖くんは爽くんが居ないとダメなんだって。それは爽くんも同じ、だよね?」 仲裁を頼む際、聖が告げたのだろう言葉を葵は言い聞かせるように伝えてくれる。そして、最後に、と自分自身の気持ちを打ち明けた。 「僕も、二人と一緒に仲良くしたい。二人が居ないと寂しい」 大好きな人にここまで言われれしまえば、もう爽だって意地を張ることは出来ない。冬耶が見ている前では多少気まずいが、葵の言葉を受けて爽もようやく素直に口を開く。 「聖が居ないとつまんないです」 「でしょ?じゃあ仲直り、ね?」 葵からの提案に頷いてみせれば、とろけそうな笑顔が返ってきた。 外で待機していた聖を室内に迎え入れれば、爽が謝罪を口にするよりも先に、聖からこれでもかというぐらいきつく抱き締められて”ごめん”とだけ告げられる。 こればかりは譲るつもりがなかったというのに、また先を越されてしまった。けれど今感じるのは劣等感ではない。”譲ってあげた”そう思えば心も軽くなる。 お兄さんのくせに我儘で自由奔放で、そして寂しがりな聖に甘んじて伸し掛かられながら葵のほうを見やれば、小さな手で作られたピースサインが返ってきた。 あの存在を独り占めするのを諦められるかというとそうではない。ただ、そこに聖も居なくてはダメだ。 爽も葵にサインを返しながら、あまりにも長くくっついてくる相棒を引き剥がしにかかったのだった。

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