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act.2追憶プレリュード<167>
* * * * * *
行事ごとが全て終わりホールを出た京介は、同じように移動し始める生徒たちを横目に見ながら、取り出した携帯で電話をかけ始めた。
けれど聞こえてくるのは無機質なアナウンスのみ。
「そうか、携帯ダメにしたのかもな」
電話の相手、幸樹が昨夜全身びしょ濡れになっていたことを思い出した京介は、彼が湖に飛び込んだ際に携帯も水没させたのだろうと不通の理由を予測した。
別れてから幸樹の姿を一切見ていない。あの後生徒会のメンバーと何かしらやり取りをしたのだろうが、きちんと自分の指示通りのことを伝えてくれたのか、それが気がかりだった。
それに、意図的で無いにせよ葵をあんな目に遭わせるきっかけを作ってしまった事実を知った幸樹が、今まで京介が見たこともないほど憔悴した表情を浮かべていたことも気になる。
楽天的に見えて人と深い関わりを持つのを避けてきた幸樹のことだ。もしかしたら責任を感じて葵の前にもう姿を現さない、なんて勝手に決め込んでいる可能性がある。
「……めんどくせーな」
どうして葵を間接的に傷つけた人物を慰めてやらなければならないのか。そう思わないでもないが、彼と親しい京介以外にこの役目を担ってやれる奴はいない。
口では”面倒くさい”、そう表現したものの、歓迎会から帰ったら幸樹が逃げ込んでいるだろう実家へと顔を出してやろうと考えた。
だがまずは幸樹よりも葵を癒やしてやらねばならない。
京介は行事が終わるなり飛び出していった馬鹿猫のように自分も真っ直ぐに葵のもとに向かいたい気持ちを堪え、ロクに食事が取れていないはずの葵のために軽食を用意するべく、寄り道することを決めた。
食堂代わりとなっている大広間に向かい、そこにいた施設の人間に持ち帰れそうなものを頼めば、さすがお坊ちゃま校の施設に勤めるスタッフ。嫌な顔ひとつせず、忠実に京介のリクエストしたものを準備してくれた。
それを受け取っていよいよ別館へと向かおうとすれば、廊下の端から騒がしい人物が駆け寄ってくる。
「京介っち!ねぇ聞いて聞いて!」
小さいくせに彼の声は馬鹿でかい。廊下中に響き渡る七瀬の声にうんざりした顔をしてみせれば、七瀬の後ろに控えていた綾瀬が”ごめん”、そんな風に軽く手を上げてきた。
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