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act.2追憶プレリュード<168>

「なんだよ、うるせーな」 「高山さん、無自覚だった!」 「……唐突だなぁオイ」 七瀬の口から飛び出てきたのは生徒会役員の中で唯一葵と二人きりにしても安全と思える先輩の名前。七瀬がいつも予想を上回る言動をしでかすのには慣れていたが、今回もさっぱり意味が分からない。 「葵ちゃんのこと好きって自分で気付いてないの!超ウケる」 「なな、そういう言葉遣いはやめなさい」 「お前はそれを俺に言ってどうしたいんだよ」 七瀬の発言に対し、綾瀬と京介の返答がそれぞれ被った。綾瀬は言葉遣いへの注意だが、京介はそんなことをわざわざ喜び勇んで報告してくる七瀬の性根に対して物申したい。 「自覚していないっていうんなら、自覚させたいじゃん?一応京介っちに報告しとこって思って」 「なんでお前はそう引っ掻き回したがるんだよ」 「だって、面白いもん」 七瀬は事あるごとに葵の周辺の恋模様を荒らしたがる。葵のことを親友と言って大事にしているくせに、恋愛ごとになると葵の気持ちを無視して嵐を巻き起こしたがるのが難点。 「綾瀬、こいつ髪だけじゃなくて頭ん中までピンクになってんじゃねぇのか」 七瀬がこの春から入れはじめたピンク色のメッシュに引っ掛けて綾瀬にクレームを入れれば、また申し訳無さそうな苦笑いが返ってくる。 けれど、この綾瀬自体がそのクールな見た目に反し、どんな七瀬も愛していると言い切るほど脳内お花畑な人物なのだから、こんな苦情など大して意味をなさない。 「素直じゃないなぁ。”俺のこと応援してくれ”って言わないの?」 「お前に頼むほど困ってねぇよ」 「強がっちゃって」 全く似てないモノマネまでしながら、七瀬は生意気にも京介を小突いてくる。可愛い顔をしているくせに、その笑顔の裏には小悪魔な一面が潜んでいるのだから油断ならない。 「ななはね、葵ちゃんにぴったりの王子様を探してあげたいわけ。いっぱい候補が増えてきたから超たのしい」 やはり七瀬は親友の恋愛事情をゲーム感覚で見守っているらしい。ゲームに参加している者としては全然楽しくない状況だというのに、だ。 しかも七瀬は京介も、そして恋人の綾瀬までをも大いに驚かせる発言を平然と続けた。 「でさ、全然良い王子様が居なかったらなながなろうかと思って」 「は?お前が?」 「なな、何考えてるの?」 単純に聞き返した京介と違い、綾瀬はその声音に珍しく焦りが混じっている。さすがに葵をそういう目で見ようとしているとは思いもしなかったらしい。恋人の前でこの発言は”浮気宣言”に他ならない。 「やだなぁ、あやも一緒にだよ?」 「ますます分からないよ」 さも当たり前のように三人で付き合うつもりだと言われ、綾瀬はこめかみを押さえてうなだれてしまう。

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