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act.3君と星の世界へ<1>

歓迎会が終わって十日。葵は歓迎会後の週末だけでなく、週が明けた一日だけ学校を休んだものの、すっかり元の調子に戻って元気に登校していた。 いよいよ明日から待ちに待ったゴールデンウィークが始まる。その事実が葵の気持ちも弾ませていた。 大型連休の前日は授業も午前中まで。遠方からやってきて寮生活を送っている生徒たちはこの連休に帰省する者ばかり。寮からは続々と荷物を持った生徒たちが出ていく。 その中で葵もまた実家に帰るために準備を進めていたのだが、玄関口で足止めを食らっていた。 「葵、そろそろ行くぞ」 「じゃあみゃーちゃん……またね」 離れまいとする都古にべったりと抱きつかれ、身動きが取れない葵を見かねた京介が助け舟を出してくれる。都古の首根っこを掴んで引き剥がすのも忘れない。 「だから勉強しとけっつったのに」 「京介も、してない。なんで」 「俺はお前と違って要領いいの」 新学年になって行われた学力テストの結果が悪すぎて連休中も補習になってしまった都古を馬鹿だと京介が罵れば、心底恨めしそうな目が返ってくる。 「でもみゃーちゃん、お休みあるもんね。その日は会いに行くから」 「へぇ休みあんの。良かったじゃん」 「……半日、だけ」 この長い連休の間、都古に与えられた自由の時間はたったの半日。その事実を口に出せばより落ち込んでしまったらしい。うなだれる都古には可哀想だが、京介は思わず吹き出して笑った。 「そんなに勉強したらさすがのお前でも賢くなれるかもな」 「もう、京ちゃんいじわる言わないであげて」 「はいはい。じゃあマジで行くぞ」 葵が注意すればようやく京介は笑うのをやめたが、ダメ押しとばかりに都古に見せつけるように葵の手を引く。連休中、都古の邪魔なしで葵を独占出来るのが嬉しくて仕方ない様子がにじみ出ていた。 葵も都古と離れるのは名残惜しいが、こればかりは仕方ない。せめて都古の姿が見えなくなるまでずっと手を振り続けてやることしか出来なかった。 学園から車で移動せずに駅を目指すのは、お坊ちゃま校の中で葵と京介しかいない。学園の広大な敷地の周辺にはほとんど民家もなく、新緑が生い茂る歩道を二人きりで進んでいく。 賑やかな学園内と違いあまりにも静かで少しだけ心細さが湧き上がってくるが、隣の京介が見透かしたように手を繋ぎ続けてくれるから葵も安心して歩を進められた。 幼い頃と比べると京介とは歩幅が随分と異なってしまったが、京介は変わらず葵の歩調に合わせてくれる。

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