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act.3君と星の世界へ<3>
一度だけ路線を乗り換え、ようやく辿り着いた実家の最寄り駅。駅前に大型のショッピングセンターが一つと、大学があるくらいで、基本的には閑静な住宅街が広がっている。
バスの停留所が立ち並ぶロータリーがある降り口へ京介と並んで向かえば、そこには大好きな人物が葵の帰りを待ち侘びていた。
周りから頭ひとつ分飛び出た長身のお陰で、少し日に焼けた顔がよく見える。葵の隣の京介もすぐにその存在に気が付いたらしい。繋いだ手はするりと解けてしまった。
けれど、解いたその手で、葵を彼に差し向けるように背中を押してくれる。
「お父さん!」
「おかえり、葵。学校までお迎え行けなくてごめんな」
京介に促されるままに彼、陽平の元へ駆け寄れば、大きく手を広げて迎え入れてくれた。仕事終わりでそのままやって来てくれたのだろう。家ではラフな格好ばかりの陽平はシャツにジャケットをきっちりと羽織っている。
笑った顔が冬耶や京介のそれと良く似ていて、二人が大人になったらこんな風になるのかと、葵はいつも羨ましく思うのだ。彼を”父”と慕っても、血の繋がりはもちろんない。成長しない体も、幼い顔も、西名家の皆とは全く違う。
「冬耶は少し遅れるらしいから先に家に帰っちゃおう」
「お兄ちゃん、ご飯間に合わない?」
「昼には間に合わないかもな。大学生は色々と忙しいんだよ」
せっかく家族全員と過ごせると思ったのに、と残念な気持ちは否めない。けれど、キャップ越しにガシガシと陽平から頭を撫でられればその気持ちは薄まってくれる。
「おいで、葵。帰るよ」
陽平は京介と違って人目を憚らずに葵の手を引いてくれる。葵を家族として迎え入れてくれたばかりの頃は、そうして伸ばされる手にすがりつくのが怖かった。
懐いてしまえば、不意にお別れの時が訪れた際余計に辛くなってしまう、そう思ったからだ。でも今はもう遠慮なしに甘えることが出来る。当たり前のように帰る場所も、彼らの元。
そして、後ろで突っ立っている京介に手を伸ばしてこんな事を言えるまでになった。
「京ちゃんも帰ろ?」
「言われなくても帰るっつーの」
ぶっきらぼうな言い方だが陽平にぴったりとくっついている葵を見つめる眼差しは優しい。
葵が両親を”父・母”と呼ぶことを京介は嫌だと思うかもしれない。そう感じて初めは”京ちゃんのお父さん・お母さん”と呼んでいた。でも京介は葵の遠慮を察して、根気よく言い聞かせてくれた。自分たちは家族になったんだから、と。
家に帰れば、そこでもまた母、紗耶香が葵の帰りを待っていてくれた。エプロン姿の彼女はニコニコと笑って、葵のキャップを外してくる。そして”おかえり”と髪を撫でてくれるのだ。
自分はなんて幸せ者なのだろう。温かな空間に包まれて、葵はしみじみと噛みしめる。
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