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act.3君と星の世界へ<5>
陽平と庭でひとしきり遊び終えた葵は今、リビングで連休中の宿題に取り掛かっていた。普段は勉強なら自室で行うことが多いが、家に居るという実感に浸っていたい、そう思ったからだ。
繋がった空間にあるキッチンからは紗耶香が夕食の準備に取り掛かり始めた音がする。今夜のメニューは一体何だろう。そんなことをつい考え始めてしまう。
食事を満足に取らせてもらえなかった幼少期のせいで、西名家に引き取られてもしばらくの間、葵は食事をすることが苦手だった。今でも少食の部類に入るのだが、それでも随分とまともな生活を送れるようになったのは彼女のおかげ。
美味しいごはんを作ってくれるだけでなく、葵がより食事に興味を持てるよう、調理する所から何度も立ち会わせ、手伝わせてくれたのだ。
「お母さん、お手伝いすることある?」
宿題がキリのいいところまで進んだこともあって、葵はキッチンに顔を出してそう声を掛けた。家にいる時は出来るだけそうして手伝いをするよう心がけてもいる。
「お、えらいね葵ちゃん。じゃあちょっと頼んでもいい?」
「うん!何すればいい?」
尋ねれば、今日は料理ではなく、おつかいをしてほしいらしい。いくつかリクエストが書かれたメモと、小さなコインケースを渡された。
「本当は京介に行かせようと思ったんだけど……もう暗くなってきたし、一緒に行ってくる?」
素直に出かけようとする葵を、頼んだ側の紗耶香が少しだけ心配そうに引き止めてきた。確かに言うとおり外は日が落ち始めているが、まだ夜にはなっていない。それにいくら幼くてももう高校生だ。
近くのスーパーまで行くのにわざわざ京介に付き添ってもらうよう頼むのは、葵もさすがに子供っぽくて恥ずかしい。
「京ちゃんまだ寝てるみたいだし、一人で行ってこれるよ」
「そう?寄り道しちゃダメよ。知らない人にもついて行っちゃダメ。分かった?」
西名家で一番葵に過保護なのは実はこの母かもしれない。冬耶や京介が何時に帰ってきても事前に連絡さえすれば怒られないというのに、葵だけきっちりと門限が定められている。
何度も繰り返される忠告に一つずつ丁寧に頷き返していると、ようやく紗耶香の気が済んだのか、玄関まで送り出してくれた。
葵の本当の家で起こった様々な事件のせいで、そして葵自身の奇異な見た目のせいで、近所の人の中には葵に冷たい目を向ける人も少なくない。
いくら一人で出歩けるようになったと言っても、その目に晒されるのが平気になったわけではなく、葵は出来るだけ目立たないよう、いつものキャップを目深に被った。
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