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act.3君と星の世界へ<6>

スーパーまでは5分程度の道のり。行き慣れた道だから迷うこともなく、紗耶香の心配するような寄り道をする場所もない。 出来るだけ早く家に帰りたい思いもあって、目的のものをカゴに入れ、会計を済ませるところまでは比較的早く、順調だった けれど、買ったものを袋に詰め終え、出口に向かおうとした時思わぬ足止めを食らってしまう。パーカーの袖口から包帯の端がひらひらと飛び出ているのに気が付いたのだ。 あの歓迎会で深く傷つけた腕は、今は随分と良くなり痕も目立たなくなってきた。だが完全に治るまではその痕を誰にも見咎められないよう、きっちりと包帯で覆っていた。 葵は邪魔にならないよう店の出入り口から少し離れた場所で買い物袋を下ろすと、パーカーの袖をめくって解け始めた包帯を巻き直すのに集中し始める。利き手ではないほうの手での作業はどうしてももたついてしまう。 「怪我、してるの?大丈夫?」 夢中になっていると、不意に少し上の位置から声を掛けられた。聞き覚えのない声に慌てて顔を上げれば、濃いブラウンのサングラスを掛けた青年が目の前にいる。 サングラスの奥の瞳は、見えそうで見えない。けれど、葵の知らない人物のようだ。年齢が分かりづらいがおそらく二十歳前後だろうか。 「あ、大丈夫です。ありがとうございます」 純粋に心配してくれたのだろう彼にお礼を言って頭を下げれば、彼はフッと笑って葵が傍に置いていたままの買い物袋を手に取ってしまう。 「家、どこ?」 「え?」 「腕怪我してるのに辛いでしょう?持ってあげるよ」 「いえ、そんな……あ、待って」 どうやら彼は相当に親切な青年らしい。見ず知らずの葵に対してそこまで優しくしてくれる。当然葵は遠慮したのだが、彼はスタスタと先を歩きだしてしまった。家を知らないはずなのに、その歩みには迷いがない。 彼の背中を追いかけながら、紗耶香の言葉が頭に浮かぶ。”知らない人について行っちゃダメ”。目の前の彼は確かに知らない人ではあるが、行き先は家。これはついて行くということになるのだろうか。葵には判断できず、結局彼の隣に並ぶことにした。 彼の口元はずっと微笑みを携えているが、何か話してくれるわけではない。何と声を掛けて良いものか悩む葵もまた、結果的に答えが見つからず言葉を発することが出来ない。 「あの、本当にすぐ近所なんです。だから、もうこの辺で」 あと三つ角を曲がれば家が見えてくる。そんな場所に差し掛かったとき、ようやく葵は意を決して彼にそう話しかけた。 辺りは沈む直前の太陽の光によって真っ赤に染められている。

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