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act.3君と星の世界へ<13>

遥は葵に甘いだけではない。どんなものからも守るためにただ頑丈な鳥かごのなかで葵を囲ってきた冬耶や京介とは違い、積極的に葵を外の世界に連れ出そうと、時にはスパルタとも思える行動を取ってきた。 今回の留学も、考えあってのことなのだろう。親友のやることにはきちんと意味があることは理解している。 だが、こうして悲しげに目を伏せる弟の姿を見ると、さすがに遥が憎らしく思えてきていた。 「そっか、はるちゃんが居ないと髪、切れないもんな」 遥が居なくて困るのは何も葵が恋しがってしまうから、というだけではない。いつからか、葵の髪を切るのが手先の器用な遥の役目になっていたからだ。 帽子なしで外を出歩けない葵が、他人に髪を触られる美容院になど、行けるわけがない。 「お兄ちゃんが切ろうか?はさみ使うのは上手だよ?」 「……ううん、遥さん、待つ」 図画工作はピカイチに得意なことを示してみれば、葵からは遠慮がちに、けれどはっきりと断られてしまった。確かにその選択は間違いではない。冬耶も言っては見たものの、葵の髪をいつも通り可愛く切り揃えてあげられる自信は正直な所なかった。 「遥さん、忘れちゃうかな?」 「何を?」 「……僕の、こと」 蜂蜜色の瞳を揺らして、葵はそんな不安を打ち明けてきた。 「はるちゃんがあーちゃんのこと?忘れる?」 忘れるどころか、毎日毎日冬耶のもとに葵の様子を伺う連絡が入ってくる。冬耶も葵に毎日など会えていないのに、だ。だから冬耶は生徒会の後輩、奈央にその義務を負わせ、葵のエピソードを拾わせていた。 「会ってなかったら少しずつ、忘れちゃう、でしょ」 「そう?じゃああーちゃんははるちゃんのこと忘れてる?違うだろ?」 心配症な弟を慰めるべく、その華奢な肩を抱いて俯きがちな顔を覗き込めば、一度は頷きが返ってきたが、すぐにそれを否定するように首が横に振られる。その拍子に、乾かしたばかりの金糸が冬耶の頬をくすぐってきた。 けれど、くすぐったさについ口元を緩ませる冬耶と違い、葵の表情は陰っている。

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