266 / 1626

act.3君と星の世界へ<16>

「多分髪のことで何か言われたっぽい」 「誰に?」 「さぁ、近所の奴らなんじゃねぇか?こいつ何も言ってこねぇけど。相変わらず気にしてっから」 咎めるようにベッドに横たわらせた幼馴染の髪を撫でる。確かに珍しい髪色ではあるが、おそらく初めて出逢ったときからずっとこの儚げな容姿にも恋していた。けれど、葵はその頃から変わらず自分の髪を憎んでいる。 何とか葵の気持ちを変えてやりたいと願っているが、外野からの言葉でこうしてすぐに心が折れてしまう。 冬耶も同じことを思うのか、葵に向ける眼差しは慈しむようなもの。けれど、またすぐに固い表情になった。 「あーちゃん、思い出したよ」 何を、そう京介が返す前に、冬耶からは答えがもたらされた。 「”パパ”のこと」 「は?なんで。なんつってた?」 「”パパ”のこと思い出さなきゃいけないって」 思いがけない言葉だった。過去を思い出してどれだけ取り乱しても、最終的に葵を独りぼっちにして壊した存在である”パパ”のことを口に出したことはほとんどない。 「思い出しても良いことねぇだろ」 「な。けど、無理して自分から思い出そうとするかもしれない。ちょっと気をつけないと。あーちゃんのこと宜しくな、京介」 冬耶はそう言い残して立ち上がった。頼まれなくてもそのつもりだ。まるで自分のほうが葵の保護者として優位のような口ぶり。思わず言い返したくなるが、ようやく邪魔者が消えようとしてくれるのを止めはしなかった。 冬耶が立ち去ると室内は途端に静かになる。葵の唇からうっすらと漏れる寝息もしっかりと耳に入ってきた。 京介は葵の眠りを妨げないよう隣に寝そべると、小さな体を自分の腕の中へと抱き寄せる。何度もこうして夜を共にしているからか、葵の体は抵抗もなくすんなりと京介に寄ってきた。 寮では都古が先に葵の隣を奪ってしまいがち。歯がゆい思いばかりさせられているから、こうして二人きりの時は思う存分葵に触れていたい。 眠っている相手に卑怯だと思わなくもないが、自分の気持ちをちっとも理解しない葵が悪い。そんな風に言い訳をしながら、眠る彼に覆い被さるような体勢をとった。 まず奪うのは規則的な呼吸を繰り返す唇。起こさないよう慎重に擦り合わせれば、空気を求めるように薄く唇が開いた。いつもならその隙間に舌を差し込んで深く貪ってしまうのだが、そうするとすぐに目覚めてしまうからぐっと堪える。

ともだちにシェアしよう!