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act.3君と星の世界へ<17>

次に向かうのは首筋。さらりとした髪を掻き分けて露わにした白い首に唇を這わせた。入浴したばかりだからか、柔らかな肌からは石鹸の香りが漂ってくる。 「ん……」 くすぐったいのか、京介が肌を啄む度に葵からは小さな声が上がる。ロクに声変わりをしていない葵の声音は高いけれど耳触りの良い柔らかい響き。だが幼いはずの声はこんな時は途端に艶っぽく変化する。 眠っている間も京介を煽り、惹きつける存在。自分がどれほど無防備なのか知らしめるためにいっそ抱いてしまいたい。そんな思いを何度湧き上がらせたか分からない。 けれど、公園で泣きじゃくっていた葵の目元がまだ少しだけ腫れぼったい状態であるのに気が付けば、これ以上の悪戯をする気にはなれなかった。 「おやすみ、葵」 こういう意気地のない所が、幼馴染の関係を崩せない要因なのは自覚している。”おまじない”なんて馬鹿なことを仕込んだくせに、本当の意味を教えることが未だに出来ていないのは真実を知った葵に拒絶されるのが怖いから。 だから京介は葵をまた腕の中に抱き戻すと、部屋の明かりをリモコンで数段階落とした。真っ暗闇を怖がる葵のために、枕元のランプを灯すのも忘れない。 京介も葵と同じように目を瞑ったが、まだ夜更け前。お子様な葵と違って京介のほうはちっとも眠気など感じていなかった。 仕方なく京介は暇つぶしにベッドサイドに放り投げていた自身の携帯を手繰り寄せて、マップ画面を開いた。 検索するのは明日、綾瀬、七瀬のカップルに誘われている水族館の位置。お互い違う路線を使うから待ち合わせを水族館の最寄り駅の改札に設定しているのだ。 けれど、現れた画面、水族館の付近に覚えのある名前を見つけて京介の手が止まる。 それは歓迎会で葵を運び込んだ先の医師から教えられた病院の名だった。そこに居ると言う心療内科の医師”宮岡”の紹介状をまだ京介は保管していた。 葵の心の傷がひとつでも多く癒せるなら、そう願ってはいるものの、普通に連れて行くとなると葵が嫌がるのは目に見えている。だが、水族館に行くついでに立ち寄ることなら出来るかもしれない。そんな考えが浮かび始めた。 けれど明日は世間一般も大型連休に入る日。都合良く空いているわけがない。そうも思いながら、京介は初めて宮岡の居る医院のHPを開いた。

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