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act.3君と星の世界へ<19>

「……ぱ、ぱ」 葵が今見ている夢は”ママ”ではなく、呼び起こしてしまったばかりの”パパ”の記憶によるものらしい。汗ばんできた額を拭ってやればフッと表情は和らぐが、まだ葵の震えは治まらない。 パジャマ越しに背中をさする動作を繰り返しても呼吸は荒くなる一方だ。たまに自力で悪夢から抜け出しまた穏やかな眠りに戻ることがあるから見守っていたが、どうやら今回は更に恐ろしい場所に堕ちてしまったようだ。 無理矢理にでも起こそう。そう決心した京介が葵の肩を数度揺さぶると、ようやく固く瞑られた瞼が開いてくれた。 「葵、どうした?」 「……あ、きょ、ちゃん。京ちゃん、京ちゃん」 「分かったから、泣くなって」 目の前にいるのが京介だと気が付くなり、ダムが決壊したかのように泣きじゃくり始める葵。懸命にしがみついてくる葵を抱きしめ返してやってもまだ足りないのか、葵はがむしゃらに首を横に振るばかり。 そして葵の唇が京介を苦悩させる時間への誘いを紡いでくる。 「京ちゃんっ、おまじない、して?」 寝起きで呂律が回らない葵が懸命に言葉にして求めるのは、いつからか始まった二人だけの秘密の行為。 二つ年上なだけでなく年不相応に大人びていた冬耶が葵を勇気づけるため、頬や額にキスを落としているのを京介が目撃したことがきっかけ。それを自分もしてみたくて京介から葵に持ちかけたのだ。 怖い夢を見ないためのおまじない。そう告げれば、葵はすんなりと受け入れて、微笑んでさえくれた。そして未だに京介のついた嘘を信じ続けている。 初めは唇を触れ合わせるだけだったキスも、いつしかその範囲は全身に広がり、明らかに子供の無邪気なおまじないの範疇を越えていたが、それでも葵は悪夢を見るとこうしてすがってくる。 誘われるがままに口付ければ、涙に濡れた唇は京介を受け入れるようにうっすらと開いてくれた。けれど簡単には誘いに乗らずに下唇を悪戯に喋む動作を繰り返す。 「あっ、や……きょ、ちゃん?」 いつまで経っても深く合わさらないキスに焦れた葵が、さっきとは違う涙を浮かべて甘ったるく名を呼んでくる。その声音とちらりと覗く紅い舌が、京介の背筋を震わせた。 「お前な、そういうのやるのは俺だけにしろよ」 「おまじない、京ちゃんだけ、だよ?」 素直に了承しているように見えて、葵は根本的なものを理解していない。蜂蜜色の瞳で京介を真っ直ぐに見上げながら更に京介の独占欲を掻き立ててくる。

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