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act.3君と星の世界へ<27>
「それに、休みに入る前にいくらでも本人に聞けたと思うんだけど」
直接誘う機会を逃した忍をこうしてさっくりと斬り捨てる冷たさも彼は秘めている。
けれど、こんな一面が出てきたのも生徒会に属し始めてから。それまでの奈央は学園内では固まった笑顔ばかり浮かべていた。きっと無理をしていたのだろう。
こんな風にのびのびと遠慮なしに言葉を返してくるようになって初めて本当に親しくなった、そんな気にさせられる。
「聞けなかったわけではない。聞いたんだ。そうしたら何て言ったと思う?」
「葵くんが?何?」
奈央が興味津々な目を向けてくるから、忍はその時の言葉を教えてやった。
「”お兄ちゃんの予定も聞かないと”、だ」
途端に奈央は声を上げて笑い出す。
「なぜ西名さんが着いてくる前提だ?だから嫌いなんだ」
忍は真面目に愚痴を零したつもりだったのだが、奈央は忍の苦悩をよそに本当におかしそうに笑い続けてしまった。
学園中の生徒や、そして時には教師までも自分の思い通りにはべらせていた頃の忍を知っている奈央からすれば、後輩一人まともにデートに誘えなかった話はさぞかしおかしいのだろう。
「笑いすぎだ」
「ごめん、でも、頑張って、忍」
咎めれば、奈央は必死に笑いを噛み殺しながら、思ってもない応援を口にしてくる。けれど、忍もそんな奈央を怒るどころか、自分でも自分が情けなくて、つい頬が緩んでしまう。
「忍は変わったね。今の忍のほうがずっと良いよ」
「お前も変わったよ。人の恋路を笑うような失礼な奴ではなかったはずだ」
「だからごめんって」
単語だけ拾えば奈央をきつく咎めているように見えるが、もちろん忍の声音にはそんな色は込められていない。
だから奈央の笑顔につられて、忍も口角を上げた。
誰が忍を変えたのか。それは間違いなく葵の存在。冗談抜きでこの長い休みにただの一度も葵に会えないなんて、そんなことは耐えられない。
そうして思いついた、緊急の生徒会を開くという苦し紛れの案は、忍が口にするなり、すぐさま奈央に却下されてしまった。
だから忍は無理やりにでも葵の自宅に乗り込んでやろう。そう考え始めてはたと気付く。
歓迎会で触れてしまった葵の実家の秘密。西名家とは隣家の幼馴染同士、そう本人からは聞いていたが、実際は今西名家に住んでいるという。
まだその事実すら告げてもらえないのは歯がゆくて仕方ない。やはりこの休みの間にもっと親しくなりたい。意気込む忍の様子を察したのか、奈央はもう一度、”頑張って”と告げてくる。そこにあるのは、友人への純粋な後押しだった。
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