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act.3君と星の世界へ<34>

* * * * * * 「すいません、せっかく時間もらったのに」 目を瞑ってそのまま眠りについてしまった葵をしばらく眺めていた京介は、同じくベッドサイドで葵を見つめ続ける宮岡への謝罪を口にした。 前日の夜中に連絡をしたにも関わらず時間を作ってくれたというのに、葵がこの様子では診察など出来るはずがない。 「いや、構わないよ。また別日においで。いつでも合わせるから」 宮岡は上辺だけでなく本当に気にしていない素振りでそう提案してくれた。ありがたい申し出だが、葵を無理に病院に連れてくればどうなるかよく分かった。そろそろ乗り越えられるかと期待していたが、葵にはまだ早かったようだ。 「こいつ、病院自体が無理っぽいから。しばらく様子見ます」 やんわりとではあるが、診察はしばらく受けさせる意志がないことを伝えた。さすがに気を悪くするだろうか、そう思ったが、京介の予想に反して宮岡はまた人の良さそうな顔で微笑んでくる。 「病院がダメなら別の場所にしよう。美味しい紅茶が飲めるカフェでも良いし、見晴らしの良い公園のベンチでも良い」 確かに宮岡の言うとおり、そんな場所でのお喋りなら葵もリラックス出来るだろう。けれど、あくまで彼は医者で、これは診察のはず。 「そういう時って診察代ってどうなるんすか」 口にすると随分阿呆らしい質問だが、京介だってこういう経験はないのだ。確かめておきたいと思うのは仕方がない。 すると、宮岡はさっきとは少しだけ毛色の違う笑みを浮かべた。それは決して京介を馬鹿にするようなものではなく、子供を諭すようなもの。 「はじめから君たちからお金を取ろうなんて思っちゃいないよ」 「……はじめから?」 宮岡の不可思議な発言を訝しんで聞き返せば、宮岡はベッドサイドから離れ、彼が普段使っているのだろうデスクの前の椅子に腰掛ける。そして覚悟を決めるかのように一度息を深く吐き出すと、京介のほうに再度向き合った。 正面から見据えれば、彼の顔立ちが派手さはないもの、そのパーツひとつひとつが整っていることが分かる。健康的な肌色も清潔感のある短めの髪も、嫌な印象を与えるような隙が微塵もない。 「すぐに私を信用してくれとお願いしても難しいとは思うけど。今話せる限りのことを伝えるよ」 宮岡が何を言うつもりなのか。京介はさっぱり予測が出来ないが、今は彼の話に耳を傾けるしかない。頷いて先を促せば、彼はデスクの上のファイルの一つを手にとってそれを京介へと差し出してきた。

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