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act.3君と星の世界へ<37>

「シノブのことは母親とセットで思い出す程度」 「他には?」 「他に誰が居るんだよ」 葵の元の家族と呼べる人間はそれだけだ。だから京介がそう返せば、宮岡は少しだけ眉をひそめた。それがどこか悲しげに見えて京介の胸に引っかかる。 けれど、葵が小さく身じろぎした事に気が付いて、開きかけた口を噤んだ。 「あぁ起きそうだね。今日のところは挨拶だけ、させてもらおうかな」 「……余計なことは言うなよ。俺はまだアンタを信用したわけじゃない」 「心得てるよ、もちろん」 ベッドサイドに近づいてくる宮岡は、京介のあからさまな威嚇にも動じず、微笑みを絶やさなかった。そこには葵に危害を加えようとする空気は感じられない。 「……きょ、ちゃん」 少し掠れた声で名を呼ばれベッドに視線を戻すと、ゆるく瞬きを繰り返す葵が京介を見つめていた。 「葵、ごめん。七瀬達と出掛けんのあんなに楽しみにしてたのに、台無しにしちまったな」 「も、行けない?」 自分が騙し討ちのように病院に連れて来たせいで取り乱した葵に改めて詫びれば、真ん丸の瞳に涙が浮かび始めた。 時間的にはこれからでも十分向かえるが、体力を失った葵の具合にも不安が残るし、何より聞いたばかりの話が決断を渋らせた。 馨は金も権力もある。葵一人、京介の手から奪いに来るのは簡単だ。宮岡の言う通り警戒するのならば、西名家に連れ帰って部屋に閉じ込めておくのが一番安全だ。叶うならば永遠にそうしていたい。 ただ、傷つけたばかりの葵をこれ以上がっかりさせるのはとてもじゃないが出来やしない。 「やだ、行く、行きたい」 「……分かった、行こう。けど無理すんなよ」 ぽろぽろと涙を零しながらねだって来られれば、もう覚悟を決めるしかない。京介が了承すれば、葵にようやく笑顔が戻った。ずっとこうして笑わせていてやりたいというのに、どうも上手く行かない。 「……あれ?」 落ち着いて初めて葵はこの空間に京介以外の人物が居ることに気が付いたようだ。視線を向けられた宮岡も、ずっとタイミングを見計らっていたのだろう。 「おはよう、葵くん」 「おはよ、ございます」 医者というだけで緊張するのか、挨拶を返す葵は少し固い様子。また不安になって取り乱すんじゃないか。そう感じた京介が間に入ってやろうかと思い立つより先に宮岡が行動を起こした。 医者の象徴とも言える白衣が葵を固くさせる要因になっていると判断した彼は、すぐにそれを脱ぎ去った。そしてベッドに寝そべる葵と同じ目線になるようしゃがみこんだ彼はにこやかに自己紹介を始める。

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