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act.3君と星の世界へ<38>

「宮岡っていいます」 「みやおか、先生」 「そう、仲良くしてください」 確かめるようにゆっくりと名を繰り返した葵に、宮岡の表情が更に和らいだ。京介は彼がまだ本当に信用に値する人間だとは判断できない。ただ、医者としては確かに優秀なのだろうと、一連の言動を見ながら感じさせられた。 「仲良く?」 医者からそんなことを言われるとは思いもしなかったのだろう。葵は丸い目を更に丸くして聞き返した。 「葵くんの好きなもの、楽しいと思う時間、そういうことを沢山教えてほしいな。そういうおしゃべりは苦手?」 そう問われれば葵に彼を拒絶する理由がなくなる。ただそれでも不安なのか、一瞬ちらりと京介へ視線を向けてきた。その視線を受け止めた京介は、葵をまた宮岡に会わせるよう後押しすべきか躊躇いを見せた。 だが宮岡が一枚上手らしい。先回りしてこんなことを言い出した。 「もちろん、彼も一緒にね。さっき西名くんともおしゃべりしてたんだ。今度は三人でおしゃべりしよう」 葵を安心させる方法として京介を使うとは何ともずる賢い。けれど、京介の名が告げられた途端安心したように息をつく葵の姿を見ると、自分が葵にとって特別な存在なのだと思い上がってしまいそうになる。 「じゃあ西名くん、また連絡するよ」 葵が頷いてしまえば京介もこの場で反対するわけにはいかない。宮岡の提案に無言で視線だけを返せば、またニコリと微笑まれてしまった。 若いと言っても一回りほどは年上に見える彼からしたら、京介の反抗など他愛のないものなのだろう。 「もうこの後は休診だから、落ち着くまで休んでいって構わないよ」 起き上がろうとする葵を見て、宮岡がそう声を掛けたが、一刻も早く水族館に向かいたいのだということはよく分かる。だから京介は少しだけ浮いた葵の背に己の腕を通し、抱き上げるようにして支えてやった。 「帰ります」 「そう、気をつけて。……またね、葵くん」 ここにこれ以上留まるつもりはないと少しきつめの口調で告げれば、宮岡は京介への返事はそこそこに、葵に別れの挨拶を告げた。葵もそれに応えるように小さく手を振ってみせる。はにかんだ笑顔さえ浮かべていた。 どうやら人見知りで臆病なはずの葵は、すでに宮岡を味方と認定したらしい。警戒心が強いようで無防備すぎる葵からはやはり一時も目を離せない。 「お前、マジで一人でふらふらすんなよ。これから」 「しないよ。ずっと手繋いでるって言ったもん」 「今日だけの話じゃねぇよ馬鹿」 病院の門をくぐりながら、葵にもう少し周囲へと気を配らせようとすれば、やはり見当違いな答えが返ってくる。でも嬉しそうに繋いだ手を見つめる葵に今日はこれ以上乱暴な言葉は与えず、ちゃんと優しくしてやりたい。 京介は手始めに、繋ぎ方をより甘く指を絡めるものへと変化させたのだった。

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