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act.3君と星の世界へ<39>

* * * * * * 葵と京介が手を繋いで病院の敷地から出ていく後ろ姿を診察室の窓から眺めていた宮岡は、完全に二人の姿が見えなくなるとようやく身を翻してデスクへと戻った。 そして取り出した携帯である番号を呼び出す。 「……アキ?今まずかった?」 『少しだけなら平気』 長く続いたコール音に相手の状況を気遣えば、落ち着いた声音が響いてきた。けれど、少しだけ声がひそめられているから仕事中なのだと察することが出来る。にも関わらず彼が会話を続けてくれるのは、きっと彼もまた宮岡と話したがっていた証拠だった。 「さっき帰ったよ。たまたま西名くんと二人で会話する機会も作れたから、警告もしておいた」 『そうか。一緒に来てたのは京介くんのほう、だよな?』 「あぁ、俺よりも大きくなってた。最近の高校生って発育いいね、参ったよ」 相変わらず辛気臭い声しか出さない彼を少しでも笑わせようとおどけてみせるが、彼には通じない。 『お坊ちゃまは?大きくなってた?』 「うーん、平均よりかなり小柄だね。体重も軽くてちょっとびっくりしたっていうのが正直な感想」 『体重?測ったの?診察で?何キロ?』 彼を心配させるのは覚悟な上で所感を伝えれば、想像以上に焦ったような声が電話口から聞こえてきた。普段は澄ました顔をして仕事をこなす、どちらかと言えばクールな彼が、こと”お坊ちゃま”のことになると壊れがちだ。 「落ち着けってアキ。測ったわけじゃなくて抱えただけ。正確な体重はわからないよ」 『抱えた?どうして?なんで宮岡が』 落ち着かせるどころか、更に彼の感情を乱してしまったようだ。最後に加えられた言葉など、友人に対してとは思えないほど棘がある。 「具合悪くなっちゃった彼を運んだんだ。あ、でも帰る時には笑ってくれたから安心しろよ」 『そう……笑ってたんだね。私も、あの方の笑顔をもう一度この目で見られたなら、どんなに幸せだろう』 また棘を向けてくる前に言い繕った宮岡の言葉で、彼の声音が一変して震えだした。

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