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act.3君と星の世界へ<41>

* * * * * * 無駄なものを排除したシンプルな内装の部屋。その真ん中に置かれたベッドの上に寝そべっている奈央の手には携帯が握られていた。 画面に表示されているのは、歓迎会初日の夜、眠る葵の枕元から見つけた写真。幼い頃の葵の姿は儚げで、そして微笑んでいるというのにどこか物悲しい。 あの日から何度見返したか分からない。 冬耶からは葵に関することで気が付いたことはすぐに報告するよう指示されていたが、この写真については葵の深い部分に触れる秘密のような気がして、本人の知らぬところで暴き立てる気は起きなかった。 次に画面に呼び出したのは幸樹の連絡先。歓迎会の日から何度メールを送っても返信が来ないことを気にかけてはいたが、追いかければ追いかけるほど逃げたがる彼の性質を理解していたからそれ以上の追及はしなかった。 だが、今朝忍から生徒会を辞める気だと伝え聞けば、もっときちんと幸樹を捕まえておけば良かったと悔やまずには居られない。 明日葵と出掛ける約束をしているが、葵の前で平静を保っていられるかが不安だった。 そんな奈央の気持ちを見透かしたように、タイミング良くメールの着信を伝える電子音が静かな室内に鳴り響く。送り主は明日会うもう一人の人物、冬耶だった。 明日の待ち合わせ時間と場所を指示する簡単な文章の他に、1枚写真が添付されていた。そこには、いつも通りくしゃりとした笑顔を浮かべる冬耶と、そして真新しそうな白いイルカのぬいぐるみを抱える葵の姿が映っていた。 冬耶が自身の携帯で映しているせいか二人の顔以外の背景は見えづらいが、家の中らしきことは分かる。連休初日の今日、早速どこかへ出掛けたのだろうか。 幼い頃の写真とは違いはにかんだ笑顔を浮かべる葵の姿に、奈央は胸の奥が温かくなる感覚を覚えた。 自宅に居るとどこか落ち着かずにやるせない気持ちになるというのに、葵の写真ひとつで気分が変わるなんて不思議で仕方ない。 けれど、心地の良い時間は不意に終わりを告げる。 「奈央様、失礼いたします。旦那様がお呼びです」 扉をノックする音と共に聞こえたのは奈央が物心付いた時からこの家に仕える家政婦の声。

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