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act.3君と星の世界へ<43>

ようやく家に連れ戻された理由が分かった。昼前には帰宅したというのに、呼び出した張本人の母は、父が仕事から戻るまで待っていろとそればかりで用件を言わなかったが、二人して奈央を責めるために呼んだのだろう。 「連絡が来ればきちんと返してるよ」 「お前から積極的に連絡を入れないでどうする。貫井の会社がどれだけうちにとって重要な関係にあるか、分かってるのか」 父の口調が一段ときつくなった。 高校生の息子が居るには少しだけ年老いた彼が、一人で会社を大きくするために奮闘しているのはよく分かっている。そのおかげで裕福な暮らしをさせてもらっていることにも感謝はしている。けれど、会社の道具として見なされるのは苦痛だ。 「明日、加南子さんをお招きしたから。きちんともてなしなさい」 「え、明日?明日は……」 「なんだ、貫井以上の大事な予定など無いだろう」 奈央の都合など考えもせずに勝手に予定を立てる父は、横暴以外の何物でもない。いつもなら反抗するのさえ億劫で流されてきたが、明日はどうしても困る。 「奈央さん、何かあるの?」 珍しく即答しない奈央の様子を見て、母親が言いかけた言葉を誘導するように尋ねてくれる。面倒事を持ち込むことも多いが、父よりはまだ母のほうが奈央の意志には柔軟だ。 「……生徒会の集まり」 「なんだ、今年もやっているのか。家を優先できないものなど辞めろと前も言ったはずだ」 奈央が絞り出した嘘は、父親に一蹴される。だが、母は違う。山程課せられた習い事を辞めたいと申し出た時も、この”生徒会”というワードで母は認めてくれたのだ。 「あなた、生徒会には北条と月島のご子息が居るのよ。親しくして損はないでしょう」 奈央にとっては忍も櫻もれっきとした友人で、北条家や月島家の子息として付き合っているわけではない。あくまで家柄で付き合いを判断する両親の思考には反吐が出そうだが、どう足掻いても人の考え方など変わらない。 「生徒会は?何時からなの?」 「昼から夕方まで」 「そう、なら加南子さんとはうちでブランチにしましょう。ねぇあなた、それでいいでしょう?」 早速段取りを組んで目を輝かせる年下の妻に迫られれば、案外父も弱くなる。まだ奈央に何か言いたげだったが、渋々といった様子で頷き返した。 けれど、母が味方かと言うと、やはりそうではない。話が一段落して部屋を出ようとした奈央に、思いがけないことを告げてくる。

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