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act.3君と星の世界へ<46>
「お兄ちゃんはあーちゃんと家族だって皆に言いたいな。隣の家のお兄ちゃん、じゃなくて、本当にあーちゃんのお兄ちゃんだって」
ダメ押しとばかりに本心を告げれば、葵の瞳にうっすらと涙が溜まっていく。この子の泣き虫はまだまだ治りそうにない。
「でも、もっといい子にならなきゃ……家族だって言ってくれる皆に恥ずかしい思いさせたら、イヤだから」
「あーちゃんは十分いい子だよ?」
冬耶が否定しても葵は頑なに首を横に振って目を伏せてしまう。やはり葵の様子がおかしい。
それが歓迎会の最中に起こした極端な行動が起因しているのか、それとも昨日公園で一人泣いていたということが理由なのか。冬耶には今判断することは出来ないが、いずれにしても塞がってきた心の傷が誰か、もしくは何かに暴かれたに違いない。
“パパ”の存在を思い出したらしいことも気にかかっていた。
けれど、冬耶が問い正そうとする前に、葵が一つ息をついて、そしてまた視線を絡ませてきた。
「ねぇお兄ちゃん。ここが僕のお家って言ったら、ママ、どう思うかな」
既にこの世に居ない人物の気持ちを察することなど出来ない。それでも葵の表情は真剣そのもので、内に秘めた哀しみをどうにかして和らげてやりたいと思わせる。
「パパも、あそこは”葵のために作ったお家”って言ってたから」
忘れていたはずの父親の言葉さえ、葵は掘り起こしているようだった。葵を置き去りにして尚、あの牢獄のようだった家に縛り付ける男の存在が憎くて堪らない。
「あーちゃんのお家はここ。あの日、そう言っただろ?」
冬耶がそう言って小さな体を抱き寄せれば、葵の手も冬耶と同じようにイルカの体を胸に抱く力を強めたようだった。自分に巻き付いてこずにぬいぐるみに頼るところも歯がゆい。
「あーちゃん、今日はお兄ちゃんのことぎゅってしてくれないの?」
「んーん、する」
兄のプライドなどかなぐり捨ててねだると、すぐに葵も応えてくれた。今日もまた乾かしてやった髪がふわりと首筋をくすぐってくる。
「イルカ、ちょっとどけてもいい?」
真ん中に居座るイルカが窮屈そうにしているし、何より葵とぴったりくっつくには正直言って邪魔である。提案すれば葵も同意し、クッションの上に優しくイルカを寝かせると、今度こそしっかりと抱きついて来てくれた。
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