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act.3君と星の世界へ<47>

「このまま寝ちゃおっか」 「うん、今日はお兄ちゃんと一緒に寝たい」 京介が妬くに違いない。そう思ったが、擦り寄ってくる葵を今夜は抱き締め続けたい。それに、もし京介も葵と寝たければ、混ざってくればいい。冬耶にとっては二人とも可愛い弟に違いないのだ。 でもこのままベッドに飛び込みたくて仕方ない冬耶の気持ちとは裏腹に葵は少しだけ冷静だった。 「あ、お兄ちゃん、まだお風呂入ってないよ?」 「えー明日入るんじゃダメ?早くあーちゃんとごろごろしたい」 「だって、髪チクチクするもん」 ワックスでセットした髪が当たって痛いのだと遠回しに言われれば、冬耶はこれ以上無理強いできない。 エスニック柄のタペストリーがボード側に掛けられたベッドへと葵を運び込んだが、自分が布団に潜り込むのはグッと堪える。 「じゃああーちゃん、待っててくれる?」 「うん、がんばって起きてる」 「ほんと?寝ちゃってたら起こしちゃうからね」 名残惜しいが可愛い弟がベッドで自分を待っていてくれるという状況も、なかなか美味しい。葵に見送られた冬耶は、早く眠る準備をしてしまおうと階下へと急いだ。 だが目標通り手早く入浴を済ませた冬耶は、リビングで父、陽平が神妙な顔をして佇んでいる事に気が付いて足を止める。 「父さん、どうした?」 いつも笑顔を絶やさない陽平のこんな表情は珍しい。冬耶が声を掛ければ、彼はソファから立ち上がって手招いてきた。どうやら冬耶が風呂から上がってくるのを待っていたらしい。 連れて行かれたのは一階の奥にある陽平の書斎。書斎と言いつつも、部屋の中には彼が集めたおもちゃが飾られていて、実質趣味部屋になっていた。 そしてシアタールームも兼ねているそこは、防音設備も整っている。人目を忍んでこの部屋に招かれる時は大抵良い話ではない。 「冬耶、これ読んでくれ」 冬耶が扉をきっちりと締めたのを見届けて、先に部屋に入っていた陽平がデスクの鍵付きの引き出しから取り出した手紙を渡してきた。白緑色の封筒の中には同じ色の便箋が入っている。そこには流麗な字で恐ろしいことが紡がれていた。 「……これ、うちに来たの?」 「いや、今日事務所にわざわざ奴の部下が届けに来た」 陽平の表情が苦しげに歪むのも無理はない。 差出人は隣家の家主であり、葵の実の父親である藤沢馨。中身は形式的な季節の挨拶から始まり、葵の様子を伺う文章が綴られ、そして最後には葵の今後の養育のことで話があるといって携帯番号が記されていた。

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