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act.3君と星の世界へ<50>

* * * * * * 綺麗にセットされたダイニングへ、次々と食事が運ばれてくる。わざわざ有名店のシェフを呼んでキッチンで調理させているらしい。簡単なブランチだと言われていた奈央はここまで大げさなことになるとは思っていなかった。 そして今日の冬耶との待ち合わせ時間を少しだけ後ろにずらしておいてよかったと、人知れず安堵する。 「ねぇ奈央、生徒会って何時に終わるの?」 奈央の意識が別のところにあると察したのだろう。正面に座る加南子から向けられる声には少し棘がある。 二つ年上の奈央を彼女が当たり前のように呼び捨てるのは、奈央の家が自分の家よりも格下だと認識している証拠だった。けれど、そこに悪意があるわけではなく、彼女はどうやら奈央を好いているらしい。 それは純粋な恋ではなく、思い通りになるおもちゃに対しての独占欲のようなものだと奈央は感じているが、例えそうであっても彼女を拒絶することは出来ない。 「終わる時間ははっきりとは決まってない」 「そうなの。じゃあおば様、私ここで奈央が帰るの待っててもいい?」 どうやら加南子は意地でも奈央の予定を拘束したいらしい。奈央ではなく、奈央の母に許可を求める所が何とも小狡い。 見た目はまさしく育ちの良いお嬢様然としている加南子だが、何不自由なく恵まれた環境で育ってきた彼女は何でも自分の思い通りになると勘違いしている節がある。 そんな彼女を助長するように、奈央の両親はもちろんと返事をしてみせる。冬耶や葵との約束が終われば、奈央はそのまま寮に戻るつもりでいた。それも両親には伝えていたが、奈央の意思など必要とされていないのだろう。 並べられる食事は皆美味しいはずなのに、奈央には全く味が感じられない。 「なんだかこうやってお見送りするなんて、新婚みたい。ね、奈央」 苦痛なだけのブランチが終わって玄関先までわざわざ見送りに来た加南子が、はしゃいだような声を上げる。 「加南子さんみたいな才色兼備なお嬢さんが奥さんなんて、奈央は贅沢者だな」 「やだわ、おじ様。私のクラスメイトに奈央の写真を見せたら皆羨ましがるのよ。こんなに素敵なフィアンセが居るなんてって」 分かりやすく加南子に媚を売る父の姿も、それに乗じて甘えた声音を出す少女の姿も、一秒でも長く視界に入れておきたくない。 絡みついてきた加南子の手をやんわりと払って、奈央は”いってきます”とただそれだけ伝えて家を飛び出した。

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