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act.3君と星の世界へ<51>

待ち合わせに指定された場所へ向かえば、そこには既に冬耶と葵が並んで待っていた。二人が色違いの帽子を被っているのがなんだか可愛らしくて、それまでの嫌な気分が一気に晴れていく。 「すみません、お待たせしました」 「全く、遅刻するなんて生意気だぞなっち」 連休というだけあって人がひしめきあっている駅前を抜けて二人に声を掛ければ、すぐに冬耶からはいつもの調子で責め立てられた。けれど両親から叱られる時とは違い、彼の言葉で息苦しくなることはない。 「奈央さん、何か食べたいものありますか?一応、お兄ちゃんといくつかお店調べてきたんですけど」 葵からは早速ランチの提案がなされた。けれど、生憎軽く食事を終えたばかりの奈央はそれほど食欲がない。とはいえ、元々ランチをすることは決まっていたのにまさかそんなことは言えず、葵が告げてくれるお店の特徴に耳を傾けた。 「葵くんはどのお店が良いかって決まってる?」 「こら、なっち。あーちゃんはなっちの好きなものを食べたいって言ってるんだよ。さっさと決めなさい」 葵に候補店の中のお気に入りを聞き返せば途端に冬耶からダメ出しを食らってしまった。彼の言葉を示すかのように、葵も期待を込めた視線を向けてくる。 仕方なく思考を巡らせて出した答えは、葵が学園の食堂でよく選んでいるメニュー。 「イタリアン……とか?」 葵が好んでいるパスタもきっとその店にあるだろう。そう思って奈央が恐る恐る切り出せば、葵の顔に笑みが浮かんだ。 「すごい!僕もこのお店が一番良いかなって思ってたんです」 奈央の選択は最良のものだったらしい。”気が合いますね”なんて付け加えられると、それだけでほっこりとした気持ちになる。 すぐに冬耶が予約の電話を掛け三人分の席を確保すると、徒歩十分ほどの距離にあるその店へと並んで歩き始めた。 駅前の喧騒から一本横道に入ると、途端に静かな遊歩道が続いていた。鮮やかな緑のトンネルを進みながらの会話で中心になるのは、もちろん真ん中にいる葵。そして話題はランチ後の企画だった。 「奈央さんはどこ行きたいですか?」 「……そうだな。葵くんはどこ行きたい?」 ランチの場所を決める時と同様、葵も奈央も互いの好みの探り合いが始まってしまう。こうして出掛ける機会が滅多にないからこそ、一つ一つを大事に過ごしたいと思ってしまうのだ。

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