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act.3君と星の世界へ<52>

「君たちに任せると全然決まらないな。リードしろよなっち」 二人のもどかしいやり取りに焦れた冬耶が、奈央を叱るように背中を叩いてくる。在学時と変わらず力加減の出来ない先輩の手に、奈央は小さくうめき声を上げた。 「リードって言われても。いつも冬耶さんが色々決めちゃうので、今日もそういうつもりでいて」 「なんだよ、人のせいみたいに。デートなんだから俺が決めるのはおかしいだろ」 「え……はい?デート?」 「デートって、どういうこと?お兄ちゃん」 思わぬ単語に聞き返せば、真ん中の葵も初耳だったらしい。奈央と同じように冬耶を見上げていた。 「ごめん、あーちゃん。実はこの間出したレポートで修正入っちゃって。大学行かなきゃいけなくなっちゃったんだ」 「そう、なんだ」 「でもランチは一緒に食べれるよ。それに終わったらお迎え行くから、帰りはお兄ちゃんとお家までデートしよう」 明らかにがっかりした様子の葵に、冬耶はすぐにフォローを入れた。 葵の性格を熟知し、なだめるのも上手な冬耶の姿は本当に葵の兄のように見える。寂しさを堪えて頷く葵も、生徒会の仕事を頑張ってこなしている時よりは幼さが強いように思えた。 「あーちゃん、なっちとデート嬉しくない?」 「それは……うん、嬉しい」 「だとよ、なっち。しっかり楽しませてやれよ」 いきなり矛先が自分へと向けられれば当然奈央も慌てるが、さっきまで寂しげに目を伏せていた葵が、今度は照れくさそうに自分を見上げているから、その期待に応えるように頷いてみせた。 けれど、冬耶がこっそりと耳打ちしてきた言葉には動揺を隠せない。 “ほっぺにチューまでならいいよ” 大切な弟に対してキスを仕掛けようとさせるなんて、一体何を考えているのか。頬が火照るのを感じながら奈央が冬耶を睨みつければ、さも愉快そうな笑みが返ってきた。ただ単にからかわれただけらしい。 「出来ないかなぁなっちには」 口笛でも吹かんばかりの余裕を見せる彼に悔しさが込み上げるが、何も言い返せない。 どこからどう見ても葵を愛してやまない彼は、時折こんな風に奈央を煽ってくる事がある。恋敵を増やしてどうする、と思わないでもないが、冬耶の行動にはきちんと彼なりの意味があるらしい。けれど奈央がいくら頭を捻った所で答えは貰えない。

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