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act.3君と星の世界へ<55>
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連休中にも関わらず、通常の平日よりも詰められた補習授業のスケジュール。苦手な勉強ばかりさせられ、二日目にして早くも都古の体力はすり減っていた。
食欲はあまり湧かないが、体は空腹を訴えてくる。連休中校舎内の食堂は稼働しておらず、食事をするにはわざわざ寮まで戻らなくてはならない。それも都古にとっては億劫で仕方なかった。
出来るだけ人がいない端の席を選んで、乗り気のしない食事をただ惰性で進めていく。
頭に浮かぶのは葵のことばかり。放課後葵が生徒会の活動から帰ってくるのを待つだけでも寂しくて堪らないというのに、こんなにも長く会わないとなると身が切り裂かれそうな思いに苛まれる。
“だから勉強しとけっつったのに”
連休前日に京介から言われた言葉が頭に響く。都古だって出来ることならそうしたい。けれどどうしても無理なのだ。
伝統芸能を生業としている家に生まれた都古は、役者になることだけが生き方として定められていた。
しかし出来の良い兄二人へのコンプレックスに押し潰された都古は、父親から侮蔑の対象として扱われるのが日常となり、一人だけ公立の学校に所属させられ、ひたすら折檻とも言えるほどの稽古漬けの毎日を送っていた。
学校にはただ在籍しているだけで通った覚えはほとんどない。だからそもそも基礎となる学力が備わっていなかった。
都古に対してあまりに厳しすぎる父親の態度を見かねた兄達と母親の口添えで、兄達が通っていたこの学園に高等部から入る許可は受けたものの、進学校に突然放り込まれた都古に勉強に着いていけというのは無理難題に等しい。
勉強が苦手なのも、他人と馴染めないのも、それなりの理由がきちんとあるのだが、わざわざそれを周りに告げて理解を求めようとは思わない。
ただ一人、葵にだけ愛してもらえればそれでいい。
今、完全に家庭と縁を切った都古にとって生きる理由は葵だけ。
どうか外野に無闇に触れてほしくないと願うばかりなのだが、そんな願いを聞き入れてくれない者もこの学園には少なからずいる。
「安定のビリが居てくれて助かるよなーマジで」
すぐ近くのテーブルから聞こえてきた声。その主はさっきまで同じ教室で補習を受けていた二人組の生徒だった。ちらりと視線を投げればやはり彼等も都古のほうを見ている。
補習の度に彼等とは顔を合わせているが、毎回こうして都古を馬鹿にする言葉を投げてくるのだ。
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